想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

「何ボーっとしてるんだ、青柳。ブリーフィング始めるぞ」
「はい、よろしくお願いいたします」

 今回一緒に乗務するのは、数いるAJA機長の中でも気難しいことで有名な荻野キャプテン。
 俺も一度一緒になったことがある。

 その時は、確認のためと思ってした質問が気に食わなかったらしく、「そんなこともわからんのか」と叱責され、フライト中なんとも気まずい時間を過ごした。


 荻野キャプテンのルーティンは、離陸後すぐコーヒーを飲むこと。

 離陸時の緊張から解放され、コーヒーのアロマに癒されたい気持ちはわからないでもない。

 しかし、水平飛行に入ると同時に、客室では最初のサービスが始まる。

 ただでさえバタついているだろうギャレーに、コーヒーを持って来てくれなんてのんきなオーダー入れたくないのが本当のところだ。


「青柳、コーヒー頼む」

 その日も、ベルトチェックのサインが消えるとほぼ同時に、荻野キャプテンからリクエストが入った。

「……わかりました」

 一瞬迷ったものの、こんなことで機嫌を損なわれては面倒なので、ギャレーにコールを入れる。


『はい、三崎です』