想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

「よかったら一緒に食事でも? ホテルの中にも周辺にも、よさそうなレストランがあったよな」
「そうですね……」

 一日一緒にいて、青柳さんの人となりが分かった今、魅力的なお誘いではある。きっと楽しい時間を過ごせるはず。

「お誘いは嬉しいのですが、蓮見さんのことも気になるので、今日はやめておきます」

 連絡を入れてみて、必要なものがあれば買って様子を見に行きたい。

 そう言うと、青柳さんは「そうだな、それがいい」と言ってくれた。


「お店に寄っていくので、私はここで」

 宿泊しているホテルまであと3ブロックというところで私が切り出すと、青柳さんは驚いた顔をした。

「え、一緒に行くよ」
「……やめておいた方がいいと思います」

 首を振る私を見て思い当たることがあったのか、青柳さんが頷く。

「わかった」

 青柳さんと一緒にいるところをもし万が一クルーに見られたら、厄介なことになる。

 後ろめたいことなんて何もないけれど、スムーズに仕事をするためにも、ここは慎重になった方がいいと思う。


「今日は本当にありがとうございました」
「俺も楽しかったよ。また帰りの便で」
「はい」

「三崎さん」

 頭を下げて歩き出した私を、青柳さんが呼び止める。

「君はまだ……いや、なんでもない」

 何を言おうとしたのだろう。首を傾げる私に向かって、青柳さんが手を振る。

 それ以上話を続ける気配がなかったので、私は手を振り返し、再び歩き出した。