想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

 ステイ先のホテルのロビーで、チェックインの順番を待つ。

 ロビーを行き交う人達を眺めながら、静かに漏らしたつもりのため息は、蓮見さんに拾われた。

「どうしたの? 浮かない顔ね」
「蓮見さん……」

 心配そうな顔で、私を見ている。

「昨日のインシデントの件? 家へ戻ってから、青柳くんに何かあった?」
「いえ、今日もちゃんと出社しましたし、大丈夫だと思います」
「それなら他に悩み事? 私でよかったら話聞くわよ」

 いっそのこと、全てぶちまけてしまいたい気持ちに駆られる。そしたら少しは楽になれるだろうか。

 迷っていると、蓮見さんは私に少し顔を近づけて、小さく囁いた。

「……青柳くんとあなたの結婚のこと?」
「えっ?」

 蓮見さん、ひょっとして何か気づいてる……?

「さっさと荷物片づけて、食事に行きましょ。今日は飲むわよ」
「えっ、あっ、はい!」

 あっけにとられている私の手を引いて、蓮見さんは歩き出した。


 蓮見さんに連れて来られたのは、雰囲気の良いイタリアンレストラン。初めて訪れる店だ。

「今日は食べるし飲むわよ」

 クラシカルな内装に絞った照明。いかにも大人が集うお店といったお洒落な感じでいて、しっかりめでボリュームのあるメニューが揃っている。

 料理もお酒もオーダーは蓮見さんにお任せした。

「青柳さん、食欲ない?」
「えっと……」