想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

 存在を確かめるように、もう一度凱斗さんが私の名前を呼ぶ。

 おそるおそる触れた指先が、私の頬を伝い、大きな手のひらで包み込む。

 彼の瞳は何かもの言いたげで、でも口元は結ばれたまま。

「……凱斗さん?」

 ゆっくりと顔が近づいて、無意識に私も目を閉じた。

 唇に、柔らかななにかが触れる。

 すぐに離れると、角度を変えてもう一度。

 啄むようなキスが、徐々に大胆になっていく。

 私はついていくのに必死で、うまく息ができなくて、凱斗さんの制服のシャツをぎゅっと掴んだ。
 

 突然唇が離れて目を開けると、まるで自分のしたことに驚いて、なんだか傷ついているような顔をした凱斗さんがいた。

「……ごめん、こんな」
「い、いえ」

 凱斗さんが離れ、それまでゼロだった二人の距離が開く。

 凱斗さんのぬくもりが、離れていく。
 

 凱斗さん、どうしてキスをしたの。

 ……どうして謝るの?
 
 聞きたいけれど、聞くのが怖くて声が出ない。
 

 気まずい雰囲気が流れる中、展望デッキの閉園アナウンスが流れてきた。

「……時間みたいだ。帰ろうか」
「はい」

 それ以上は何も言葉を交わすことなく、その場を後にした。