想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

 名前を呼ばれて振り返る。
 ライトアップされていない、建物側の方に見える黒い影。

「凱斗さん!」

 姿を見るなり、飛び込んだ。広い胸に受け止められる。

「あ、蒼羽?」

 戸惑うような声が聞こえたけれど、構わなかった。

 体中が凱斗さんの香りで満たされる。

 帰って来てくれた。私はもう、それだけで。

「よかった、無事で」
「……心配かけてごめん」

 私を受け止めた時のまま、背中のあたりにゆるく回されていた腕が、ギュッと私を抱きしめる。

「本当によかった。凱斗さんにもしものことがあったら、私……」

 涙が溢れて、言葉にならない。凱斗さんの体温を感じて、ようやく安心することができた。

「蒼羽」

 凱斗さんが、優しい声で私を呼ぶ。

 今顔を上げたら、きっと涙でボロボロだ。

 それでも、私も凱斗さんの顔が見たくてゆっくりと顔を上げた。
 
 止まらない涙を、凱斗さんの指が優しく拭う。

「泣かないで蒼羽。君に泣かれたら困る……」

 何かに気持ちを揺さぶられることなんてほとんどない凱斗さんが、本当に困った顔をしている。

「ごめんなさい。安心して気が抜けてしまって……」
「蒼羽……」