想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

 大きく深呼吸をして、鏡の前に立つ。

 背中までの染めたことのない黒髪を、サービス中に零れないようがっちりと固めた夜会巻き。

 しっかりめだけれど、清潔感を損なわないよう心掛けたメイク。

 指先は淡いピンクのネイル。お客様を傷つけるなんてことがないよう、時間とお金をかけて手入れをしている。

 左手の薬指には、美しい輝きを放つマリッジリング。それに、両耳にきらめくパールのビアス。

 思いもよらなかった凱斗さんからのバースデープレゼント、ホワイトパールのピアスは、何も付けていない時より、顔周りを華やかにしてくれる気がする。

 私にとってアクセサリーとは、家族から贈られたり、頑張ったご褒美に自分で自分にプレゼントするものだった。

 誰かが自分を思って選んでくれたものを身に着けることが、こんなにも心躍ることだったなんて。

 正直にそう言うと、凱斗さんはなんだか複雑そうな顔をしていたけれど、「こんなに喜んでもらえて、俺も嬉しいよ」と言っていた。


「蒼羽、もう出る?」

 Tシャツにジーンズと、ラフなスタイルの凱斗さんが、洗面所に顔を出す。

 今日から彼は二日間のオフらしい。

 数か月に一度の審査が落ち着いたので、今回のオフはゆっくり体を休めると言っていた。

「占領しちゃってすみません。もう終わりました!」

 ドライヤーやヘアケア用品を仕舞って、廊下に出る。

「急かした訳じゃないから……」

 そこまで言って、凱斗さんが動きを止めた。

「どうかしました?」

「いや……、ピアス着けてくれたんだ。よく似合ってる」

「ありがとうございます……」

 ストレートに褒められて、照れてしまう。

「出かけるんですか?」

 ゆっくりすると言っていたのに、凱斗さんはいつの間にか部屋着から着替えている。