想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

 ベッドサイドのデスクに置いていたスマホから、目覚ましがわりの音楽が聞こえる。

 リビングからは、パタパタと歩き回る足音。そしてスーツケースを転がすような音が聞こえる。


 ドアの向こうに、彼女がいる。


 胸にじわりと広がる幸福感を噛みしめ、俺はベッドを降りて自室のドアを開けた。


「あ、凱斗さん。おはようございます」
「……おはよう」

 リビングには、三日ぶりに見る妻の姿。

 長い黒髪をまとめてメイクもすませ、フライトに向けすっかり仕上がっている。

 仕事モードに入った蒼羽は、凛としていて美しく、つい見とれてしまう。


「ぼーっとしてどうしました? 凱斗さんも今日はフライトですよね? 体調は悪くないですか」

 手を伸ばせば届く距離で、蒼羽が心配そうに俺を見上げる。

 無意識に彼女に触れそうになる自分を諫めて、そっと息を吐いた。