想いはいつか、本物になる。〜契約結婚脱出までの私たちの365日〜

「蒼羽」
「はい」

 凱斗さんが、私の名前を呼ぶ。

 呼ばれることも、凱斗さんを名前で呼ぶことも、慣れるまでだいぶ時間がかかったのに、もうすっかり馴染んでしまった。

「嘘で始まった結婚だけれど、俺は二人でずっと楽しく過ごせたらと思ってる。俺に嫌なところがあったらすぐに言って。死ぬ気で直す」

「死ぬ気でなんて大げさです。それに、嫌なところなんてありません」

 凱斗さんは、気遣い屋で、優しくて、一緒にいて楽しくて……。

 彼に対して漠然と抱いていた『苦手だ』という印象は、私の中で全部ひっくり返ってしまった。

「これからもよろしくな、蒼羽」
「こちらこそよろしくお願いします」

 ソファに座り、向かい合う凱斗さんの表情が僅かに翳る。

「……凱斗さん?」

 静かに伸びて来た右手が、私の頭に触れた。

 手のひらで優しく、そっと撫でられる。

 凱斗さんの物言いたげな瞳と、一瞬触れた温もりに心臓が音を立てた。