ヤノダンゴ探偵のダイレクトプレー集


・【06 団子六本目:七月第三週、お花ちょん切り事件】


 家へ帰るため、机の中の教科書やノートをバッグに入れようとしたその時だった。
「またあるな……」
 と、つい呟いてしまった。
 俺は中腰で机の中を隅まで覗く姿勢から、また席に座り、机の中に改めて手を突っ込むと、そこには大きめの手紙が入っていた。
 この前も差出人不明の依頼の手紙が入っていたけども……そんなことを思いながら、その手紙を取り出すと、あの時の全く一緒だった。
 否、違うことが一つある。それは字体だ。前回は男っぽいゴツゴツした字だったけども、今回はいわゆる丸文字で、女子っぽい字だった。
《キムチくん、ヤノダンゴ探偵さん、こんばんは》
 いや夜のラジオ番組へのメールじゃん。
 中学校の机に入れているんだから、どうにしろこんばんはではないだろ。
《最近私は気になっていることがあるのでお手紙をしたためさせて頂きます》
 丁寧な書き方だなぁ、差出人不明のくせにさ。
《それは荒山地区の三島のあたりの花がちょん切られていることです》
 この前行ったところに近いなぁ。
《そこから商店街までの道のりの花がちょん切られてしまっているのです》
 ふ~ん、何か変な感じだなぁ、それともまた花の病気ってヤツなのかな? 畑のナスの時みたいに。
《気味が悪いので解決して頂けると有難いです》
 ……気味が悪いから解決って、依頼人がその場にいないと解決したとて気味の悪さは解消しないんじゃないか?
 でも周りを見渡しても、依頼人のような人間の姿は……あっ、
「よぉ! キムチ! また手紙か! ボクに読ませて!」
 そう言って俺の手紙を掴んで奪い切り、その手紙を天に掲げた征喜。
 いや、
「じゃあ読めよ。戦利品じゃぁい、じゃぁないんだよ」
「読む読む」
 そう言って読みだした征喜。
 読み切ったみたいなところで征喜がこう叫んだ。
「キムチの机に依頼の手紙入れたヤツ! 明日ホームルームで結果言うから楽しみにしてくれ!」
 放課後、人の数がまばらになった教室にその声は響いたわけだが、あぁ、でもそうか、とは思った。
 俺の机に手紙を入れるチャンスのあるヤツなんて同じクラスのヤツくらいしかいないわけだから、それでいいのか。今この場にいるかどうかは分からんから、征喜の今の叫びは空を切った可能性もあるけども。
 ……でも待てよ、うちのクラスに俺へ依頼を言うのが恥ずかしいと思うヤツいるのか……? それも二人。字体が違うから二人だろう。
 字体が違うのに書き出しの文章は似ているけどなぁ、そもそも探偵を確実にやらせたいなら征喜のほうに入れないか?
 う~ん、まあ同じクラスなら俺のほうが謎を解いているということ知っているだろうし、だから俺のほうなのかな。
 いやいや、それでも征喜のほうが頼りにされている感じするけどなぁ、俺は本当に助手みたいな扱いクラスでされているけどな、とか考えていると、征喜が、
「じゃあ早速! 荒山地区の三島あたりに行くぞ!」
 そう言って俺の腕を引っ張って、走り出した。
 一応俺のペースに合わせて走ってくれているが、こうやって腕を引っ張られていること、ちょっと恥ずかしいんだよなぁ。
 だから、
「征喜、ちゃんとついていくから腕掴まないでくれよ」
 すると征喜はすかさず、
「でもこっちのほうがバディモノみたいでいいだろ!」
 俺は溜息交じりに、
「バディモノって意外とデコボココンビじゃないとダメなんだよ、これだと仲良し過ぎるんだよ」
「別に良いだろ、ボクとキムチは仲良しなんだから」
 と真っ直ぐな瞳でそう言ってきた征喜。
 いやまあそうなんだろうけども、そうハッキリ言われるとちょっと本当に照れる。
 すると征喜がニカッと笑ってから、
「キムチのスルーパスに反応したヤノダンゴ選手のダイレクトシュート! 決まったぁ!」
 と叫び、いやサッカーの実況過ぎると思ってしまった。全然探偵関係無い台詞過ぎる。
 その後も征喜は鼻歌っぽく、
「オー、まさき~、俺たちのまさき~、オー、まさき~、オレンジと青の~」
 と歌いながら、上機嫌に目的地へ向かって行っていた。
 それにしても何で征喜のチャント、アルビレックス新潟時代の田中辰巳選手のチャントの替え歌なんだ。
 征喜は別に全然オレンジと青じゃないからな。普通に高校の制服だからな、と思いながら、ふと後姿を見ると、お団子ヘアを形成するゴムがオレンジと青色で、そういうことかよ、と思った。
 いやまあ征喜の影響でアルビレックス新潟好きだけども、まさかそこまでの、色ごと愛すほうのサポーターだったとは。ちなみに俺だって矢野貴重選手もアルビレックス新潟在籍中にW杯に出たということくらいは知っている。
 そんなことを脳内で考えながら歩き、荒山地区の三島あたりに着いた。
 そう言えばこういう探偵ごっこの時は、あんま征喜はサッカーの話をしないな。探偵のことを考えているのかもしれない。まだ全容が全然明らかじゃないのに。
 いやそんなことはどうでもいいんだ、探偵ごっこなりの現場検証だ。さて、花がちょん切られていると言われていたけども、普通に咲いている花もある。
 まさかこういうので嘘? と思っていると、征喜が指差してこう言った。
「あれ多分花だったんじゃないか! 花っぽい葉の草!」
 征喜が指差している植物を見に行くと、確かにちょん切られている跡があった。
 それは鋭利なハサミなどで人為的にちょん切られていた。
 これは病気とかじゃないなぁ、と思っていると征喜がこう言った。
「これは見立て殺人だ! 次は人が死ぬぞ!」
 俺はツッコむように、
「怖いことをドデカい声で言うなよ、短絡的過ぎるんだよ。もはや見立て殺人であってほしいと願う人みたいになってるぞ」
「そんなことはない!」
 と征喜が声を荒らげたところで、高校生くらいの男性が俺たちに話し掛けてきた。
「えっと、どうしたんですか?」
 征喜が即座にこう言った。
「花がちょん切られているんだ! これは危険な予兆だ!」
 俺は首を横に振ってから、
「そんなことないだろ。まずはどのくらいの数、この花が切られているのか調べないとダメだな」
 高校生くらいの男性は「えー」と低く声を出してから、
「そう言われると確かに同じ花がいっぱい切られていますよね、この花ならこの道ずっと切れているかもしれませんね」
 征喜はアゴに手を当てながら、
「これはもう連続見立て殺人の可能性が出てきたな……」
 いや、と俺は、
「逆にというか、この切られている花が切られていない範囲を探してみる必要があるかもしれないな」
 するとその高校生くらいの男性が、
「えっ? どういうことですか?」
 と聞いてきたので、征喜に聞かせるためにも思っていることを喋ることにした。
「切られている範囲が分かれば、ある仮説も立てられるんです。まだ思っている段階なので話せませんが」
「えっと、じゃあ僕も手伝いましょうか? 二人でこの一帯を調べることは大変ですよね?」
 征喜は嬉しそうにその高校生くらいの男性の手を握り、
「よろしくお願いします!」
 と言ったんだけども、俺は、
「いや何か用事がありましたら大丈夫ですよ」
 でもその高校生くらいの男性は首を優しく横に振ってから、
「えぇでも時間はあるのでお手伝いしますよっ」
 と言ってくれたので、一緒に花が切られている範囲を調べることにした。
 その結果は、とある一本道のルートにある同じ花だけが切られていた。
 高校生くらいの男性は、
「えっとぉ、何で同じ花ばかりなんでしょうかねぇ」
 と言い、征喜は、
「ちょっとこの一本道のルートから逸れたら切られていないな! ちょっとはみ出す範囲の花は切られているのもあったけどな!」
 俺は大体分かったので、言うことにした。
「多分その花の花粉アレルギーなんだと思います」
 征喜は大きな声で、
「花粉アレルギーっ? スギ花粉みたいなもんかぁっ?」
「そう、人は本当にいろんなアレルギーを持っていて、多分この花を切った人はこの花の花粉アレルギーなんじゃないかな。この荒山地区から商店街までの道のりを徒歩で移動する人で、この季節になるとくしゃみが多くなることに気付いたその人は、思い切ってその花を切ったんじゃないかなぁ」
 高校生くらいの男性はうんうん頷きながら、
「えー、ビックリです。でもそういうことかもしれませんね。僕も謎が解けてスッキリしました。有難うございます。それでは」
 と言って別れた。
 こうやって手伝ってくれる人がいると有難いなぁ、とか思っていると、征喜がふとこう言った。
「あの人、手を握った時、手が可愛かったなぁ。スベスベだったぞ! スベスベ!」
 俺は即座に諫めるように、
「いや変態オヤジみたいなこと言わないでくれよ、謎が解決したことが台無しだぞ」
 征喜は少々焦りながらも、
「いやいや! ゴメンゴメン! でも何かすごかったんだよ! 手のタレントさんかってくらい!」
 俺は語気を強めて、
「いやなおも批評を述べるなよ、とにかく今日はもう帰ろう」
 征喜はジャンピングガッツポーズをしながら、
「可愛い手の男性とのワンツーで抜け出したキムチの高速クロスをボクが頭で合わせたみたいな展開だったなぁ!」
 と言ったんだけども、いや征喜の頭は全然使っていなかったけどな、とは思った。
 次の日、征喜が朝のホームルームで事件の話をすると、クラスメイトたちが、
「すげー」
「また事件解決したのかぁ」
「さすがヤノダンゴ探偵だ」
 と感嘆の息を漏らしていたんだけども、差出人が誰かは分からなかった。
 一応リアクションをじっくり見ていたんだけどな。
 さて、そろそろ俺たちの中学校は夏休みに入る。
 中学生になって最初の夏休み、俺は何しようかなぁ。
(新作のニンテンドースイッチ2のソフトをするだけだけども)