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・【04 団子四本目:七月第一週、イベントの飾り事件】
・
征喜が上機嫌で放課後、近寄ってきた。
最近は俺の確保を先にするなぁ、と思いつつ、俺はもう観念したような顔をしていると、
「商店街内のヤノダンゴ探偵の知名度が何かあがっちゃってなぁ! 誰かが宣伝してくれているのかなぁ!」
誰かがって自分でやっているんだろ、白々しいなぁ。
「というわけで今日も商店街に行くぞ!」
「まあ分かったよ、暇だし付き合ってやるよ」
と俺が適当に相槌を打つと、征喜は少しムッとしてから、
「暇だからじゃない! 助手という! パサーということを意識してくれよ!」
「そんなにサッカーで言うなよ」
それにサッカーで言うなら俺が司令塔だろ。
何そこは譲れない、ピッチ上の王様は自分だという気持ちを持っているんだよ。
多分俺だろ、このチームのエース。
そんなことを思いながら、商店街へ行くと、白ヒゲのおじさんが征喜に話し掛けてきて、
「いやぁ! 良かった! 今日は説得してほしい人物がいるんだぁ!」
説得してほしいって、俺たち便利屋なのっ?
白ヒゲのおじさんは続ける。
「町おこしの一環で季節の飾りは統一したいんだが、あの和菓子屋だけ全然統一しようとしないんだ。今は七夕なのに梅雨の飾りを飾ってさ。どうにかしてほしいんだよ」
征喜は胸をドンと叩きながら、
「お任せあれ!」
と声をあげた。いや水道管の破裂を直す業者みたいな言い方だな。
白ヒゲのおじさんが俺たちを先導するように歩き始めたので、ついていくと、和菓子屋の近くで立ち止まって指差した。
そこには紫陽花を模したオブジェの上に、カタツムリの模型が乗っていた。
今は七月の四日、確かに七夕にしないと商店街として統一感が出ないというわけか。
俺と征喜はとりあえず和菓子屋に入ろうとすると、人の気配を察してか、和菓子屋の店主さんが顔を出した。
「何だ、吾郎、オマエがいるということはオブジェの話か。オブジェを片付けるのは面倒なんだよ。こっちのタイミングでさせてくれ」
すると征喜が、
「それならヤノダンゴ探偵と助手がお手伝いだ!」
と声を挙げると、その和菓子屋の店主は鼻で笑ってから、
「大体何なんだ、その名前は。キムチとヤノダンゴの何が探偵なんだ」
と言ったので、あれ? 俺はキムチと名乗っていないけども、と思いながら、
「何で俺のキムチというあだ名、知ってるんですか?」
「そりゃ探偵ごっこの宣伝をしてた子からキムチとヤノダンゴって聞いたからだよ」
コイツ……勝手によそでキムチって言うなよ……恥ずかしいんだよ、キムチというあだ名は何気に。
征喜は別になんてことない表情しやがって。オマエが言いふらしてんだろ、全く。
和菓子屋の店主さんは手で払うようなポーズをとってから、
「とにかく、オブジェの片付けの手伝いとか別にいいから、買わないなら帰った帰ったっ」
と言ったんだけども、征喜は拳を強く握りながら、
「いいや! 片付ける!」
と言って紫陽花のオブジェを持とうとしたその時だった。
「触るなぁ!」
すごい剣幕で叱った和菓子屋の店主さん。
あまりの気迫にあの征喜が一歩たじろいて、でも負けじとこう言った。
「でも、でも……球際は負けられない! デュエル!」
俺は即座に、
「いや球際の体のぶつけ合いでは負けられないじゃぁないんだよ。それならこうしましょう。俺、お菓子買うんでとりあえず店内見ていいですか?」
和菓子屋の店主さんは深い溜息をついてから、
「まあ客ならしょうがねぇなぁ、入れ入れ」
と言って俺と征喜は店内に入った。
何故片付けが面倒と言っていてオブジェを片付けようとすると怒るのか。何かオブジェを出しっ放しにしておかないといけない理由があるのか?
俺は店内の内装を確認した。
ショーケースの中には白餡で作られたと思われる練り菓子や、透き通っていて綺麗な羊羹などが並べられている。
そのお菓子のモチーフは七夕のモノもあったが、梅雨モチーフである紫陽花の和菓子もまだ置いてあった。
売れ残り? いや和菓子ってそんな賞味期限長くないだろう。そういうことじゃないはずだ。
壁のほうを目を向けると、子供が描いたと思われる絵が何枚も飾ってあった。
正月の風景に雪だるま、あれはフキノトウかな? それと桜に鯉のぼり、という風に、大体一ヶ月に一枚って感じだった。
何かヒントになればいいなぁ、と思って俺は、
「あの絵は貴方の家の子供が描いているんですか?」
と聞いてみると、和菓子屋の店主さんは面倒クサそうに、
「あれは近くに住んでいるガキがくれる絵だ」
と言ったんだけども、喋り終えたあとはちょっと感慨深そうというか、嬉しそうな顔をしていた。
すると征喜が挙手してから、こう言った。
「ボクのほうが絵上手いからボクの絵も飾ってくれよ!」
いや、チャンスあるかもしれないじゃぁないんだよ。
ボクの承認欲求満たすチャンスじゃぁないんだよ。
和菓子屋の店主さんは酷く嫌がった顔をしながら、
「何でオマエなんかの絵を飾らないといけないんだよ」
と言って、征喜は肩を落とした。
そりゃそうだろ、でもどうだろう、近くに住んでいるガキと呼ぶ子の絵を飾るか?
まあガキという言い方はこの人なりの言い方だろうけども、何か違和感があるんだよな、この和菓子屋。
一体どこだろうと思ったその時だった。
征喜はまた挙手してから喋り出した。
「合わせるから! 画力もテーマも今飾っている絵に合わせるから!」
いや、と俺はすかさず、
「画力とか合わせたら征喜である必然性が無いじゃん、上手いという話どこにいったんだよ」
「だってだってだってぇ」
と征喜は駄々をこねるように体を揺らしたところで、店内にお客さんが入ってきたので、征喜は背筋をピンと伸ばして、どうぞどうぞの手をした。
そのお客さんは和菓子を買って、イートインスペースで食べ始めた。
本当はこのお客さんがいなくなったところで多分こういうことじゃないのかなと言いたいんだけども、何だかあのお客さんは長居をする雰囲気なのでもう言うことにした。
「和菓子屋の店主さん、俺分かりましたよ。オブジェを片付けない理由が」
和菓子屋の店主さんは目を見開いて驚き、征喜が声をあげた。
「本当か! 何か理由とかあったのか!」
俺は頷いてから喋り出す。
「もしかしたら常連さんに病気がちの子がいて、その子のために前の季節の雰囲気も残しておきたいと思っているんじゃないでしょうか」
「どういうことだっ?」
征喜が叫んだ。
俺は続ける。
「この飾られている絵、鯉のぼりの絵までで止まっていますよね。つまり梅雨の季節にはまだ来ていないということですよね。だから梅雨の分が済むまで待っているんじゃないでしょうか」
和菓子屋の店主さんはニヤリと笑ってから、こう言った。
「坊主、よく分かったな。その通りだよ」
征喜は即座に、
「じゃあそう言えばいいじゃないか!」
和菓子屋の店主さんはハンと鼻で笑ってから、
「このずっと独りでやってきたおれが子供のためにこんなことしているなんて商店街の連中に知られたくなくてな。それに他人が病気だという話を勝手にするのもセンシティブだろ、そういう迷いもあってな」
それならば、
「あの白ヒゲのおじさんに言うのはやめましょうか」
と俺が言うと、征喜は首をぶんぶん横に振ってから、
「いや! 言うべきだ! 分かってもらうべきだ! こんな素晴らしいことを!」
和菓子屋の店主さんは後ろ頭を掻きながら、
「まあ別にどっちでもいいんだけどな、商店街のヤツらとあんまり関わり合いも無いし。じゃあ分かった。そっちの圧がすごいほうの坊主、代わりに言ってくれ。オマエ、マジで圧がすごいし、その勢いなら説き伏せられるだろ」
「勿論だ!」
そう言ってジャンピングガッツポーズをした征喜、と俺は白ヒゲのおじさんの元へ戻り、事の顛末を話した。
白ヒゲのおじさんは納得したようだった。
・【04 団子四本目:七月第一週、イベントの飾り事件】
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征喜が上機嫌で放課後、近寄ってきた。
最近は俺の確保を先にするなぁ、と思いつつ、俺はもう観念したような顔をしていると、
「商店街内のヤノダンゴ探偵の知名度が何かあがっちゃってなぁ! 誰かが宣伝してくれているのかなぁ!」
誰かがって自分でやっているんだろ、白々しいなぁ。
「というわけで今日も商店街に行くぞ!」
「まあ分かったよ、暇だし付き合ってやるよ」
と俺が適当に相槌を打つと、征喜は少しムッとしてから、
「暇だからじゃない! 助手という! パサーということを意識してくれよ!」
「そんなにサッカーで言うなよ」
それにサッカーで言うなら俺が司令塔だろ。
何そこは譲れない、ピッチ上の王様は自分だという気持ちを持っているんだよ。
多分俺だろ、このチームのエース。
そんなことを思いながら、商店街へ行くと、白ヒゲのおじさんが征喜に話し掛けてきて、
「いやぁ! 良かった! 今日は説得してほしい人物がいるんだぁ!」
説得してほしいって、俺たち便利屋なのっ?
白ヒゲのおじさんは続ける。
「町おこしの一環で季節の飾りは統一したいんだが、あの和菓子屋だけ全然統一しようとしないんだ。今は七夕なのに梅雨の飾りを飾ってさ。どうにかしてほしいんだよ」
征喜は胸をドンと叩きながら、
「お任せあれ!」
と声をあげた。いや水道管の破裂を直す業者みたいな言い方だな。
白ヒゲのおじさんが俺たちを先導するように歩き始めたので、ついていくと、和菓子屋の近くで立ち止まって指差した。
そこには紫陽花を模したオブジェの上に、カタツムリの模型が乗っていた。
今は七月の四日、確かに七夕にしないと商店街として統一感が出ないというわけか。
俺と征喜はとりあえず和菓子屋に入ろうとすると、人の気配を察してか、和菓子屋の店主さんが顔を出した。
「何だ、吾郎、オマエがいるということはオブジェの話か。オブジェを片付けるのは面倒なんだよ。こっちのタイミングでさせてくれ」
すると征喜が、
「それならヤノダンゴ探偵と助手がお手伝いだ!」
と声を挙げると、その和菓子屋の店主は鼻で笑ってから、
「大体何なんだ、その名前は。キムチとヤノダンゴの何が探偵なんだ」
と言ったので、あれ? 俺はキムチと名乗っていないけども、と思いながら、
「何で俺のキムチというあだ名、知ってるんですか?」
「そりゃ探偵ごっこの宣伝をしてた子からキムチとヤノダンゴって聞いたからだよ」
コイツ……勝手によそでキムチって言うなよ……恥ずかしいんだよ、キムチというあだ名は何気に。
征喜は別になんてことない表情しやがって。オマエが言いふらしてんだろ、全く。
和菓子屋の店主さんは手で払うようなポーズをとってから、
「とにかく、オブジェの片付けの手伝いとか別にいいから、買わないなら帰った帰ったっ」
と言ったんだけども、征喜は拳を強く握りながら、
「いいや! 片付ける!」
と言って紫陽花のオブジェを持とうとしたその時だった。
「触るなぁ!」
すごい剣幕で叱った和菓子屋の店主さん。
あまりの気迫にあの征喜が一歩たじろいて、でも負けじとこう言った。
「でも、でも……球際は負けられない! デュエル!」
俺は即座に、
「いや球際の体のぶつけ合いでは負けられないじゃぁないんだよ。それならこうしましょう。俺、お菓子買うんでとりあえず店内見ていいですか?」
和菓子屋の店主さんは深い溜息をついてから、
「まあ客ならしょうがねぇなぁ、入れ入れ」
と言って俺と征喜は店内に入った。
何故片付けが面倒と言っていてオブジェを片付けようとすると怒るのか。何かオブジェを出しっ放しにしておかないといけない理由があるのか?
俺は店内の内装を確認した。
ショーケースの中には白餡で作られたと思われる練り菓子や、透き通っていて綺麗な羊羹などが並べられている。
そのお菓子のモチーフは七夕のモノもあったが、梅雨モチーフである紫陽花の和菓子もまだ置いてあった。
売れ残り? いや和菓子ってそんな賞味期限長くないだろう。そういうことじゃないはずだ。
壁のほうを目を向けると、子供が描いたと思われる絵が何枚も飾ってあった。
正月の風景に雪だるま、あれはフキノトウかな? それと桜に鯉のぼり、という風に、大体一ヶ月に一枚って感じだった。
何かヒントになればいいなぁ、と思って俺は、
「あの絵は貴方の家の子供が描いているんですか?」
と聞いてみると、和菓子屋の店主さんは面倒クサそうに、
「あれは近くに住んでいるガキがくれる絵だ」
と言ったんだけども、喋り終えたあとはちょっと感慨深そうというか、嬉しそうな顔をしていた。
すると征喜が挙手してから、こう言った。
「ボクのほうが絵上手いからボクの絵も飾ってくれよ!」
いや、チャンスあるかもしれないじゃぁないんだよ。
ボクの承認欲求満たすチャンスじゃぁないんだよ。
和菓子屋の店主さんは酷く嫌がった顔をしながら、
「何でオマエなんかの絵を飾らないといけないんだよ」
と言って、征喜は肩を落とした。
そりゃそうだろ、でもどうだろう、近くに住んでいるガキと呼ぶ子の絵を飾るか?
まあガキという言い方はこの人なりの言い方だろうけども、何か違和感があるんだよな、この和菓子屋。
一体どこだろうと思ったその時だった。
征喜はまた挙手してから喋り出した。
「合わせるから! 画力もテーマも今飾っている絵に合わせるから!」
いや、と俺はすかさず、
「画力とか合わせたら征喜である必然性が無いじゃん、上手いという話どこにいったんだよ」
「だってだってだってぇ」
と征喜は駄々をこねるように体を揺らしたところで、店内にお客さんが入ってきたので、征喜は背筋をピンと伸ばして、どうぞどうぞの手をした。
そのお客さんは和菓子を買って、イートインスペースで食べ始めた。
本当はこのお客さんがいなくなったところで多分こういうことじゃないのかなと言いたいんだけども、何だかあのお客さんは長居をする雰囲気なのでもう言うことにした。
「和菓子屋の店主さん、俺分かりましたよ。オブジェを片付けない理由が」
和菓子屋の店主さんは目を見開いて驚き、征喜が声をあげた。
「本当か! 何か理由とかあったのか!」
俺は頷いてから喋り出す。
「もしかしたら常連さんに病気がちの子がいて、その子のために前の季節の雰囲気も残しておきたいと思っているんじゃないでしょうか」
「どういうことだっ?」
征喜が叫んだ。
俺は続ける。
「この飾られている絵、鯉のぼりの絵までで止まっていますよね。つまり梅雨の季節にはまだ来ていないということですよね。だから梅雨の分が済むまで待っているんじゃないでしょうか」
和菓子屋の店主さんはニヤリと笑ってから、こう言った。
「坊主、よく分かったな。その通りだよ」
征喜は即座に、
「じゃあそう言えばいいじゃないか!」
和菓子屋の店主さんはハンと鼻で笑ってから、
「このずっと独りでやってきたおれが子供のためにこんなことしているなんて商店街の連中に知られたくなくてな。それに他人が病気だという話を勝手にするのもセンシティブだろ、そういう迷いもあってな」
それならば、
「あの白ヒゲのおじさんに言うのはやめましょうか」
と俺が言うと、征喜は首をぶんぶん横に振ってから、
「いや! 言うべきだ! 分かってもらうべきだ! こんな素晴らしいことを!」
和菓子屋の店主さんは後ろ頭を掻きながら、
「まあ別にどっちでもいいんだけどな、商店街のヤツらとあんまり関わり合いも無いし。じゃあ分かった。そっちの圧がすごいほうの坊主、代わりに言ってくれ。オマエ、マジで圧がすごいし、その勢いなら説き伏せられるだろ」
「勿論だ!」
そう言ってジャンピングガッツポーズをした征喜、と俺は白ヒゲのおじさんの元へ戻り、事の顛末を話した。
白ヒゲのおじさんは納得したようだった。



