ヤノダンゴ探偵のダイレクトプレー集


・【11 団子十本目:夏休み(5)、ひまわりちょん切り事件】


 今日は依頼ありませんように、と願いつつも、どうせ何も無くても征喜と一緒に商店街の周りを歩くんだからもはや一緒かと思いつつ、一階に降りると、征喜がシリアルを食べていた。
 がっつり食事をすな、と思いながら、征喜が俺に向かってこう言った。
「最近ナッツ類が不足しているって話なのに、このシリアル、ナッツいっぱいだぞ」
 いや、
「俺がそう思って買ってきた俺のシリアルなんだよ、それ。俺の楽しみだから食うな」
 征喜はむふーと息をついてから、
「でもサッカー選手にも大切な栄養素だから」
「オマエはもうサッカー選手じゃなくてヤノダンゴ探偵だろ」
 と言っておくと、征喜は上機嫌そうにニコニコし始めた。
 まあそれで嬉しいならいいけども、と思いながら、俺は隣の席に座ってシリアルを食べようとすると、
「まあそういうのはもう食べ歩きでいいでしょ! 今日は手紙があります!」
 と言って俺に手渡してきた。
 いや俺もシリアル食べたいんだけどもな、と思いながら読み始めた。
 今回はここの荒山地区の話らしい。
「町内会が管轄しているヒマワリの花がちょん切られている、と」
 すると征喜が間髪入れずに、
「また花粉か病気?」
 と言ったわけだけども俺は、
「いや、どうかな。ヒマワリってあんまり花粉ある感じじゃないし、実際に見に行かないと分かんないな」
「じゃあ早速行こう!」
 とシリアルをかき込んで立ち上がった征喜はすぐに俺の腕を引っ張り始めたので、仕方なくそのまま行くことにした。
 征喜は元気に、
「行ってきまーす!」
 と言って俺の母さんとバイバイしながら、外に出た。
 季節は八月の下旬、そろそろ夏休みが終わる。
 宿題は計画的にやっているので問題無いが、結局ずっと征喜と一緒だったな。
 そんなことを考えながら、ヒマワリの花がちょん切られた現場へ行くと、結構しっかり、ハサミのようなモノで切られていた。
 征喜は俺の右腕を持って、大きく腕をあげさせるように上へ引っ張ってから、
「ヒマワリの花の部分だけちょん切られている……これは事件だ! ヒマワリちょん切り魔事件だ! ということはヤノダンゴ探偵のお出ましだ!」
 と叫んだ。
 いや、
「俺に挙手させるな、ヤノダンゴ探偵はオマエだけなんだよ」
「二人!」
 と快活に笑った征喜。
 何がそんなに楽しいんだ、まあいいや、
「ヒマワリをちゃんと確認しようか」
 と言ったところで、征喜はこう言った。
「キムチ! 分かった! これは見立て殺人だ! いつか人が首を切られます!」
 俺はさすがに吹き出してから、
「またそれかよ! お馴染み過ぎるだろ!」
「でもついに……」
 そう生唾を飲み込んだ征喜。
 俺はすぐに、
「まだそうとは決まったわけじゃないだろ。実際そうだったことなかったし」
「でもでもでもぉ!」
 駄々っ子のようにそう言った征喜。いや見立て殺人の駄々っ子ってなんだよ、本当に。
 俺は征喜に向かって真面目に、
「そんな仮定よりもさ、もっと現場を分析したほうがいいんじゃ?」
 征喜は首をブンブン横に振るって、
「でも何か起きてからだと遅い! こんな茎の太いヒマワリをハサミで切るなんて余程だよ!」
 俺は呆れながら、
「余程って何だよ、太いから首に近いということか? そんなことよりさ、何かまだ若いヒマワリはこうやってちょん切られていないだろ? 葉の様子から察するにヒマワリも咲きがだいぶ終盤だと思われるヤツだけちょん切られているよな。これが何かのヒントになるかもしれない」
「じゃあ年寄りが首を切られるんだ!」
 そう焦りながら叫んだ征喜。
 何で征喜の中では今回かなり危険なんだよ。
 俺はやれやれと思いながら、
「すぐに怖いことを言うなよ。ちょん切られているヒマワリ一本や二本じゃないし、ここの花畑は五本くらいいかれてるじゃん。じゃあ五人も殺されるのかよ?」
 俺のその言葉に征喜はう~んと唸ってしまった。やっぱりそこは自分の中でも引っ掛かってるみたいだ。
 まあゆっくり考えていこうかなと思ったその時だった。
「えっ? キムチくんと征喜くん? 久しぶりですね!」
 この声は、と思って振り返ると、そこにはエリーちゃんがいた。
 俺はすかさず、
「今日はドラマの撮影とかないの?」
 と聞くと、エリーちゃんはハハッと笑ってから、
「えー、そんな毎日毎日あるもんじゃないですよー、私も中学生やっていて学業優先でやっていますからねー」
「じゃあ今日オフなんだ」
 と俺が相槌を打つと、征喜がエリーちゃんにこう言った。
「ヒマワリの花がちょん切られているんだけども、他にこういうところなかったか!」
 エリーちゃんは目を丸くしながら、
「えっ? 本当だ! ここもだ!」
 と言ったので、俺は即座に、
「ここもっ?」
 と言いながら、グイっとつい一歩前に出てしまうと、エリーちゃんは前髪を触りながら、
「えっとね、商店街近くの花壇でもヒマワリの花が切られたって話になっていましたよ」
 俺と征喜、そしてエリーちゃんも一緒にその場所へ直行した。
 そこの場所もヒマワリの花がちょん切られていた。
 しかも近くの人に聞いてみたら、なんと昨日やられたらしい。
 俺と征喜も昨日商店街の近くを歩いていたけども、全然気付かなかったなぁ、節穴過ぎる。
 そしてこのヒマワリも咲き終わりというか、そろそろ枯れそうなヒマワリだったみたいだ。
 う~ん、でも分からないな、と思っていると、征喜が、
「せっかく商店街のほうへ来たし、ソフトクリーム食べない?」
 と言ってきたので、俺も何か食べたいと思ったので、
「そうするか。あ、エリーちゃんも、俺おごろうか?」
 と軽く聞くと、
「えっ? いいのっ? ありがとう! 大好き! キムチくん!」
 と言ったので、おごるというとこんな調子良く大好きなんて言ってくれるんだと思った。
 でもまあ悪い気はしないなぁ、と思っていると、何だかエリーちゃんの顔が赤くなってきて、何だろうと思っていると、
「えっ! あっ! いや! 今の大好きは深い意味無いですからね!」
 と焦りながら言ってきたので、何をそんなに焦っているんだろう? と、俺は頭上に疑問符を浮かべながら、
「そんなことは分かっているよ」
 と言いながら、ソフトクリームを買いに行った。
「俺、今日は征喜の分もおごるよ」
 と征喜に言うと、征喜は嬉しそうに、
「ありがとな!」
 と言った。
 それは当然なんだよな、とは思った。幼馴染だから分かるけども、征喜の家は正直そこまで裕福とは言えない。だからこそ早くサッカー選手になるため頑張っていたんだ。
 それがケガでプロになるほどの激しい運動はできなくなって。きっと征喜は高校生になったらバイトしないといけなくなる。
 だからこうやって一緒にヤノダンゴ探偵とか言って遊んでいられるのは、もうこれが最後の三年間だ。
 そうなるとこうやって一緒にも居られなくなってくるだろう、とか、俺はちょっと夜になった時に考えていた。
 征喜が俺と一緒にヤノダンゴ探偵というものをやりたいのならば、やってあげよう、と。
 こうやって二人でいられる時は一緒にいてあげても良いと思っている。
 ある種、こんな優雅に遊んでいられるのは夏休みの中学生の特権だから。
 近くの電気屋を通ればテレビのニュースが流れている。
 テレビでは連日、とある国の情勢が悪化し、日本への輸入品が大打撃を受けているというニュースばかり流れ、穀物に、ナッツ類、香辛料も値段が高騰し、町内の商店街も皆、困っているという話だ。
 雑貨屋は、店先で売っているカシューナッツやクルミをキャラメリゼしたお菓子が高くなってしまうと嘆き、カレー屋は香辛料のことで困っていて、肉屋はこだわって作っているソーセージに使う、香辛料とナッツ類が足りなくて大変という話だ。近くで畜産業を営んでいる人は動物にあげる穀物が足りなくて、どうすればいいんだと喚いていた。
 でも俺はこうやってアホ男子と一緒に探偵遊びだ。俺も征喜も中学生で良かった、と思っていると、征喜がいつの間にか俺の顔を見ていて、
「どうしたんだよ」
「別にっ!」
 そう言ってニッコリと微笑んだ征喜。
 俺は買ったソフトクリームを征喜とエリーちゃんに渡して、最後に自分のを持って近くのベンチに座ろうとすると、征喜とエリーちゃんは間を空けて座っていたので、真ん中に座ることにした。
 征喜はソフトクリームをペロペロ食べ始め、
「やっぱり見立て、ペロ、見立てさつ、ペロペロ、見立てさつじペロ……ペローーーーーーー!」
 俺はマンキンのツッコミで、
「ペローーーーーーーじゃぁないんだよ! 今はもう食べることに集中しろよ! 後ペローーーって口で言うなよ!」
 征喜はウキウキしている感じで、
「あまりにも美味し過ぎてすごいことになってた! これはもう今日のハイライトだ!」
 俺は少し抑えてツッコむように、
「これをゴールシーンにするなよ」
 征喜はいつものハイテンションで、
「キムチが放った高速アイスクロスにヤノダンゴ探偵が反応! ダイレクトでゴール右隅に突き刺したぁ!」
「ゴールシーンみたいに実況するなよ、食べるんだよ」
 征喜とそんな会話をしていると、エリーちゃんが何故かちょっと不満そうにこう言った。
「えーもー、本当キムチくんと征喜くんは仲が良いですねー、何か嫉妬しちゃうっ」
 俺は嫉妬って、こんなアホ男子に? と思いながら、
「いやだってエリーちゃんと俺は住む世界違うじゃん、俺はアホの征喜と一緒でちょうどいいよ」
 と答えると、エリーちゃんは頬を膨らませながら、
「えっ! 全然そうじゃないです! 私とキムチくんは合うと思います!」
 俺はちょっと困惑しつつ、
「合うってそんな、ご飯とキムチみたいに言われても」
「えっとぉ、そんなつもりはないけどもぉ」
 とエリーちゃんが言ったところで征喜が、
「住む世界が違うとかそういうことは悲しいって話だよな!」
 と言ってガハッと笑った。
 まあそういうことかと俺も納得した。
 何か傷つけちゃっていたら申し訳無かったな。
 そこから俺と征喜とエリーちゃんは黙って食べ進めた。
 俺たちの目の前には昨日ちょん切られたヒマワリ畑があった。
 やっぱり光景が異様すぎる。これが綺麗なヒマワリならもっと夏休み感があったのに。そう考えると許せないな。
 この事件の犯人、絶対捕まえてやると思っていると、征喜がふとこんなことを言った。
「それにしても前はあのソフトクリーム屋さん、トッピングのサービスしてくれたのにな」
「あぁ、あれ止めたよな。カラーシュガーとか砕いたナッツとか」
 と自分で言った時、俺はある仮説が思いついた。
「征喜、エリーちゃん、俺犯人が分かったかも」
 征喜はおそるおそるといった感じで、
「ソフトクリーム屋さんのトッピングを止めた犯人?」
 と言ったところで、被せるようにエリーちゃんが、
「えっ、いやそうじゃなくて、ヒマワリの犯人ですよねっ!」
「そう、ヒマワリのほうの犯人だ」
 俺は征喜とエリーちゃんに説明した。
 何故咲き終わりのヒマワリの頭ばかりちょん切られているのか。
 まだ若いヒマワリはちょん切られず残されている理由。
 最初は、もう咲き終わりのヒマワリのほうがちょん切るのに罪悪感が無いからだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
 事件の謎はこの世界情勢と結び付けられていたんだ。
 俺と征喜とエリーちゃんは、多分ここだという場所に来ていた。
 そこで俺はカマをかけた。
「貴方がヒマワリの花をちょん切っているところ、見かけてしまいました」
 店主は血の気が引いたような表情をした。
 ビンゴだと思った。
 征喜が援護射撃をする。
「ボクたちは人様に犯人だと突き出し、追い詰めたいわけじゃないんだ! でもこのヒマワリをちょん切る事件はみんなの不安を煽っていることも事実! もうやめてほしいんだ!」
 店主は頭をさげながら、
「分かった。もう止める。そもそも十分”獲れた”し。もうやらない。約束する」
 犯人はお肉屋さんだった。
 その後、俺と征喜とエリーちゃんはお肉屋さんの状況を聞いて、その場を後にした。
 きっとヒマワリのちょん切りをやめれば、この話も風化していくだろう。
 枯れたヒマワリを切るということは、そこについているヒマワリの種が欲しかったということだった。
 情勢の悪化で手に入りづらくなった、ソーセージの中に入れるナッツ類を、ヒマワリの種で代用していたんだ。
 ソーセージの中身は何が入っているか分からないから、アクセント程度のナッツならそれで事足りるというわけか。
 何故無断で行なっていたのかと言うと、タダで欲しくて断られたくなかったから、そして本来別のナッツを使っていると記載していたからだ。かなり卑怯だが、まあもうやらないという確約を得たので、いいとしよう。
 (ちなみにちゃんと人体にとって、毒ではない肥料で育ったヒマワリを狙って収穫していたらしい。お肉屋さんは町内の美化係を担当していて、ナッツ類高騰の保険として元々そういった肥料を作って育てていたらしい。それも全部町内会のお金だけども)
 征喜は嬉しそうに、
「犯人も突き止めて良かった! キムチ! 良い球際のデュエルだった!」
「サッカーで言うなよ」
 そうツッコんでおくと、エリーちゃんが、
「えっと、じゃあ私はこの辺で。他に行くところがあるからっ」
「うん、分かった! じゃあそろそろ中学校で、だね!」
 俺と征喜はエリーちゃんとバイバイして、それぞれ家路に着いた。
 それにしてもエリーちゃん、何か予定があったのだとしたら、俺たちと一緒に居て大丈夫だったのかな?
 まあ急ぎの用じゃなかったら、良かったけども。