・
・【01 団子一本目:六月下旬、学校で育てている野菜事件】
・
俺は今、探偵をやらされている。
探偵ごっこと言ってもいいだろう。
とは言え、何度か既にちゃんと解決もしているので、変にクラスメイトからの信頼は厚い。
だからってそれに対して、調子に乗ることはしたくないんだけども、この、俺の隣にいる征喜が最高に”やっちゃっている”ので危険だ。
「今日も我々ヤノダンゴ探偵の出番だな! キムチよ!」
「俺はヤノダンゴ探偵じゃないんだよ! 何なんだよ! ヤノダンゴ探偵って!」
俺が征喜へ強めに言うと、征喜はニカっと笑ってから、説明しようとするような顔をし始めたので、
「いい! いいよ! 結構聞いてるからいいんだよ! 言わなくていい!」
と俺は遮るように言ったんだけども、征喜の耳にはもう俺の声は届いていない。
壊れたサブスクのように同じ曲というか言葉を再生し始めた。おんぼろ過ぎる。
「ボクはサッカー選手の矢野貴重(ヤノ・キチョウ)選手に憧れているお団子ヘアの男の子、だからヤノダンゴなんだ。そんなボクはケガの影響で激しい運動ができなくなってサッカーを諦めないといけなくなって、じゃあ何するの? 探偵でしょ!」
俺は矢継ぎ早に、
「最後の部分だけいつもと違うのかよ! でも林修先生バージョンってなんだよ!」
「同じことばかり聞かせていると教育に悪いから」
「オマエは俺の母親じゃないんだよ! 後スピードラーニングとか同じことばかり聞かせても悪くはないんだよ!」
征喜は小首を傾げてこっちを見てくるだけ。
スピードラーニング知らないのかもしれない。
サッカー選手目指していたならスピードラーニングで英語習っとけよ。
俺は語気を強めて、
「というかさ! 我々ヤノダンゴ探偵ってなんだよ! 征喜一人でいいだろ! 俺を巻き込むなよ!」
と言ったって俺を巻き込む理由はよく分かっている。
何故なら解決しているのは俺だからだ。
征喜はデカい声出して広報活動しているだけで何もしていないのだ。
そのくせ最後の手柄の部分は全部自分みたいにするので、征喜=ヤノダンゴ探偵ということになっている、それはまあいいんだけども。
俺はヤノダンゴ探偵なんて変な名前、嫌過ぎるから。
まあそういったデカ声広報活動のせいで、中学校全土に、そう、三年生にすら知れ渡っている。
いや中学一年生が中学三年生に知られているって相当だぞ、相当悪目立ちだぞ、本当に。
征喜はそんな俺の気持ちなんて露知らず、今回の事件であるナスの苗を見ている。
うちの中学校は一年生が学校の敷地内で野菜を育てることが通例で、その畑は校舎裏のスペースにある。
校舎内から見ることもできるが、教室の無い棟からしか見られないので、あんまり見る人はいなさそうだ。
まさかこんな夏の香りを感じ始めた、爽やかな時期に陰湿な事件が起きてしまうなんて。
ナスの苗はせっかく花を咲かせたのにも関わらず、無惨にも切り落とされている。
ナスの花はそのまま地面に落ちている状態だ。
さらにそればかりではなくて、パプリカの実がやっと実ったんだけども、それも熟されることなく誰かに取られてしまったという事件も同時勃発している。
ただまあなんというか、こんなイタズラをやっている犯人を突き止めたいという好奇心は分からんでもない。
でもヤノダンゴ探偵を名乗ることが全然分かんないんだよな。
何だよヤノダンゴ探偵って。矢野貴重選手、ヤノキムチと言ってキムチ売ってるサッカー選手なんだけども、何それと俺のあだ名を合わせているんだよ。
もうサッカー選手になれないんだから矢野貴重選手に憧れるの止めろよ。
でも憧れているだけあって、すごいポストプレーとキープ力、ずっと俺の頂点に君臨しているし、ずっと俺をキープしている。
征喜はずっと幼馴染だし、サッカーに一生懸命打ち込んでいたことも知っているし。
ぶっちゃけ俺は選手として好きというか尊敬していたし、まあ今日もこのヤノダンゴ探偵とやらの助手をしてやるかな……もう一度や二度じゃないし、正直犯人突き止めて周りから賞賛されたりするのも癖になりかけてるし、と思ったところで、征喜が叫んだ。
「キムチ! 分かった! これは見立て殺人だ! いつか人が首を切られます!」
俺は呆れながら、
「急に怖いことを口走るなよ。あとキムチと言うなよ、そのあだ名やめろよ、それじゃもう矢野貴重選手過ぎる。俺たちのペア、矢野貴重選手過ぎるんだよ、それだと」
「でも木村超という名前は略したらキムチじゃん! 矢野貴重選手と同じチョウの文字も入ってるし! それは譲れない! ヤノダンゴとヤノキムチのペアで頑張ろう!」
「ヤノキムチはもはや本家なんだよ、じゃあもう俺の名前はキムチでいいよ、キムチで。ヤノキムチを避けられるならキムチでいい。それはそうと見立て殺人なんて怖いこと口走るなよ」
征喜は少しトーンを下げて、肩を落とした。
いや、見立て殺人であってくれたほうがテンションマックスでいれたのに、じゃぁないんだよ。
征喜はちょっとだけ声の大きさを抑えて、
「とにかく犯人を捜して、ギッタンバッタンにしてやろうぜ」
俺はすかさず、
「シーソーしてる時の擬音じゃん、いや何かボコボコにすることも悪いじゃん」
と言ったところで、周りにいた、ナスとパプリカを育てている一年B組の人たちが声をあげ始めた。
「いやこんなことをするヤツなんて最低だ!」
「ナスの花を切るなんて最悪!」
「いやパプリカのほうが酷いよ、だってせっかく実が成ったのに熟す前に取るってさぁ」
「そうそう、命が完成する前に刈り取るなんて死神じゃん」
「犯人はもう永久追放だな」
あんまりヒートアップするのも良くないと思うんだけどなぁ。
俺が重要視すること、というか興味のあるところは正直犯人捜しよりも、その動機なんだよな。
何でこんなことをするのかが知りたい。
勿論ただのイタズラなら論外なんだけども、もしかしたら何かそうしないといけない理由があるのかもしれない、と考えていると、征喜が、
「とにかく事情聴取開始だ! 何か変な人見た人いるぅっ!」
と言いながら手を挙げたんだけども、オマエが挙手するなよ、とは思った。
一年B組の生徒たちはクラスメイトの顔を見渡しているが、誰も何も知らないといった感じ。
まあ目撃者がいれば簡単なんだけどもな、と思っていると、俺と同じクラスである一年A組のエリーちゃんが話し掛けてきた。
「えっとぉ、やっぱり犯人は犯行を繰り返すだろうから、張って待っていればいいんじゃないんですか?」
エリーちゃんはいつも何か事件があるとやって来るなぁ、こういうの好きなんだろうなぁ、ドラマのような作り物だけじゃなくてマジの事件も。
エリーちゃんは今、人気急上昇中の子役としてテレビやバラエティに引っ張りだこの俳優さんだから、ドラマのような作り物が好きな理由はなんとなく分かるけども。まあこうやって本当の事件にもやって来て勉強しているということなのかな? 真面目だなぁ。
征喜はエリーちゃんの言うことに、うんうん頷いてこう言った。
「じゃあ今日はお泊まりして張りまくるぜ!」
するとエリーちゃんが嬉しそうに、
「えっ! じゃあ私も見張りたいです! キムチくんと征喜くんと一緒に私も張ります!」
そう言ってハイタッチをした征喜とエリーちゃんは、すぐさま俺に向かってハイタッチしようとしてきたので、
「張らないよ、こんだけ大事(おおごと)になれば犯行を繰り返さない可能性もあるし」
でもエリーちゃんは少し不満そうに、
「ぇっ、でも、こういう事件モノでは大体犯行を繰り返すモノですよ?」
と言うと、征喜も同調するように、
「そうだぞ、こういうヤツはもう自分を律すことができないんだ。一度ファウルする選手は何度もファウルしてくるぞ」
俺はでもなぁ、と思いつつ、
「そんな急にサッカーで言われても。でもこんな殺気立っているところに、もう一回来るかな。というか張ってる暇、エリーちゃんには無いでしょ」
エリーちゃんは本当にビックリしているといったような声で、
「えぇっ! そんなことないですよ!」
と言ってから、少し自慢げに、
「私は結構融通利かせてもらえるほうですからね!」
とエリーちゃんは胸を叩き、正直何かスゴっと思ってしまった。
子役に周りが合わさせるほど人気って、やっぱりエリーちゃんは雲の上の存在なんだなぁ。
今こうやって普通に話していることが奇跡みたいだ。
そう考えると、こうやってヤノダンゴ探偵をやっていることも悪くないのかもしれない。役得過ぎる。
征喜はアゴに手を当てながら、
「う~ん……手詰まりだな……持ち物検査でもするか……」
俺は小首を傾げながら、
「熟していないパプリカが出てくるってこと? でもすぐに捨てることもできそうだし」
征喜は少し自信ありげに、
「捨てていたら指紋を検出すればいいだろ? それかVARでチェック」
俺は少し強い口調で、
「中学校内にカメラ設置されていないから。仮に設置されていたらもう全部VARでいいし」
征喜は急に挙手したと思ったら、
「VARチェック!」
と叫んだ。
いや、
「だから無いんだって。急に主審気分になるな。というか俺はちょっと可能性として考えていることがあるんだけども」
とすぐに次の言葉を言おうとしたんだけども、即座にエリーちゃんがカットインしてきて、
「えっ! 何ですか!」
と言ったので、まあその相槌に合わせて言うことにした。
「こういう、植物の病気ということは無いのかな? だってナスの花を切って、そのまま下に置いておく? するにしてもイタズラならぐしゃぐしゃに花を踏んだりしない?」
征喜はほほうと息を吐いてから、
「キムチのイタズラ、ちょっと猟奇的で怖いな。花をぐしゃぐしゃに踏むなんて」
俺は慌てて、
「いや俺はそんなことしないけどね! でもそのまま下に落ち過ぎているというか、踏んだり、ちょっとだけ投げたりもしないのかって話!」
「えっ、じゃあ調べてみますね!」
そう言ってエリーちゃんがスマホをいじり始めた。
俺も征喜も子供用の、制限のあるスマホしか持っていないから、無限に検索できないんだよな。
そんなことを思っていると、目を丸くしたエリーちゃんが声を荒らげた。
「ありました! これナスの病気です! 花が落ちるんですって!」
一年B組の生徒たちは感嘆の息を漏らした。
それと共に、
「すげぇ! こういうことに気付くって!」
「さすがヤノダンゴ探偵だ!」
「エリーちゃんもナイスアシスト!」
それに対して征喜は一年B組のほうに手を振りながら、
「おぅ! やってやったよ!」
と応えていた。いやオマエは何もしていないだろう。手柄泥棒過ぎる。
でも一年B組の盛り上がりは徐々に、
「いやでも熟す前のパプリカは病気じゃないだろ?」
「そうだよ、しっかり持ち去っているし、絶対人の手が加えられている」
「パプリカやったヤツ、マジ処す」
とそっちのほうへ移行していった。まあまだ解決していないからな。
さて、パプリカのほうはしっかり持ち去られている。
そう言えば、
「まあ六月下旬という時期的にそうなんだろうけどさ、取られたパプリカって全部熟していないヤツ?」
と俺が一年B組のほうへ聞くと、
「そうだよ!」
「四個くらい一気に成っていたよな」
「それが全部取られていてさ、最悪だよ、熟す前だよ?」
熟す前にパプリカが取られている、って、もしかしたら、
「そうすることによって苗が痛まないとかあるんじゃないかな、そのこともエリーちゃん、調べてほしいんだ」
するとエリーちゃんは頭上に疑問符を浮かべながら、
「えっとぉ……調べますけども、苗が痛まないってどういうことですか? 病気になりづらいということですか?」
俺は説明するように、
「いやナスの病気の時に思い出したんだけども、苗って最初は未熟な実を取って、苗を疲れさせ過ぎないほうが長持ちするって何か聞いた事あるかもしれない」
征喜がデカい声で、
「じゃあわざとということかぁっ!」
俺はちょっと落ち着いてという手振りをしながら、
「わざと、というか、正しい知識で行なっている可能性がある。だから調べてほしいんだ」
エリーちゃんは敬礼のように手をおでこに当てて、
「分かりました! じゃあ苗ということを検索ワードに入れて調べます!」
俺は即座に、
「いや確か未熟果って言って、字はえっと、こういう」
と言いながら俺がエリーちゃんに近付くと、エリーちゃんが、
「エェッ! キャッ!」
と叫び声を上げて、俺からサッと離れた。
あっ、と思ってしまった。
そうだ、エリーちゃんは天才子役と言われているくらいの今一番人気の俳優さんなんだったんだ、あぁ、不用意に近付いてしまった。
でもそうか、俺、エリーちゃんから若干キモイと思われていたのか、ちょっとだけ落ち込むなぁ……。
でもエリーちゃんはすぐさまいつものエリースマイルになって、
「えっ! いや! 急で驚いただけで! あの! どういう字を書くんですか!」
とスマホを差し出してきたんだけども、キモイヤツがエリーちゃんのスマホを触っちゃいけないので、
「未熟は未熟で、果物の”くだ”で未熟果だよ」
と口頭で伝えておいた。
(キモイヤツの指示なのに)エリーちゃんはちゃんと検索してくれたらしく、
「えぇっ! 最初の十個くらいの未熟果は! 取ったほうがいいですって! それ以降も熟させる実と未熟果を交互に取ることを繰り返したほうがいいですって!」
一年B組はざわざわし始めた。
「そういうことだったのかよ」
「じゃあ言ってくれればいいのに」
「何なんだ、人騒がせな」
でも俺は、
「いや先に騒いだのはみんなのほうなんじゃないかな。こうなってしまって言い出しづらくなったんじゃないかな。つまりそれを行なった人は引っ込み思案の子ということだな。だから犯人捜しはしないでほしい」
と言っておくと、それに同調するように征喜が、
「そうそう! そういうことだから! これでみんな納得だぁ! オー! エイエイオー!」
と叫ぶと、一年B組の生徒たちもその勢いに押されて「エイエイオー!」と言っていた。
何だこの変なカリスマ性。
だから何か事件解決したの、いっつも征喜みたいな印象になるんだよなぁ。
まあ一年B組の生徒たちは納得して、その場を去っていったから別にいいか。
するとエリーちゃんがバンザイしたので、また征喜がハイタッチすると、エリーちゃんが、
「えっ! いや! そうじゃないです! 私はキムチくんとハイタッチしたかったんです!」
と言った時に、嫌われているわけじゃなくて本当にビックリしただけなんだと思って、ホッと胸をなで下ろした。
ハイタッチも恥ずかしながら、させて頂きました。
・【01 団子一本目:六月下旬、学校で育てている野菜事件】
・
俺は今、探偵をやらされている。
探偵ごっこと言ってもいいだろう。
とは言え、何度か既にちゃんと解決もしているので、変にクラスメイトからの信頼は厚い。
だからってそれに対して、調子に乗ることはしたくないんだけども、この、俺の隣にいる征喜が最高に”やっちゃっている”ので危険だ。
「今日も我々ヤノダンゴ探偵の出番だな! キムチよ!」
「俺はヤノダンゴ探偵じゃないんだよ! 何なんだよ! ヤノダンゴ探偵って!」
俺が征喜へ強めに言うと、征喜はニカっと笑ってから、説明しようとするような顔をし始めたので、
「いい! いいよ! 結構聞いてるからいいんだよ! 言わなくていい!」
と俺は遮るように言ったんだけども、征喜の耳にはもう俺の声は届いていない。
壊れたサブスクのように同じ曲というか言葉を再生し始めた。おんぼろ過ぎる。
「ボクはサッカー選手の矢野貴重(ヤノ・キチョウ)選手に憧れているお団子ヘアの男の子、だからヤノダンゴなんだ。そんなボクはケガの影響で激しい運動ができなくなってサッカーを諦めないといけなくなって、じゃあ何するの? 探偵でしょ!」
俺は矢継ぎ早に、
「最後の部分だけいつもと違うのかよ! でも林修先生バージョンってなんだよ!」
「同じことばかり聞かせていると教育に悪いから」
「オマエは俺の母親じゃないんだよ! 後スピードラーニングとか同じことばかり聞かせても悪くはないんだよ!」
征喜は小首を傾げてこっちを見てくるだけ。
スピードラーニング知らないのかもしれない。
サッカー選手目指していたならスピードラーニングで英語習っとけよ。
俺は語気を強めて、
「というかさ! 我々ヤノダンゴ探偵ってなんだよ! 征喜一人でいいだろ! 俺を巻き込むなよ!」
と言ったって俺を巻き込む理由はよく分かっている。
何故なら解決しているのは俺だからだ。
征喜はデカい声出して広報活動しているだけで何もしていないのだ。
そのくせ最後の手柄の部分は全部自分みたいにするので、征喜=ヤノダンゴ探偵ということになっている、それはまあいいんだけども。
俺はヤノダンゴ探偵なんて変な名前、嫌過ぎるから。
まあそういったデカ声広報活動のせいで、中学校全土に、そう、三年生にすら知れ渡っている。
いや中学一年生が中学三年生に知られているって相当だぞ、相当悪目立ちだぞ、本当に。
征喜はそんな俺の気持ちなんて露知らず、今回の事件であるナスの苗を見ている。
うちの中学校は一年生が学校の敷地内で野菜を育てることが通例で、その畑は校舎裏のスペースにある。
校舎内から見ることもできるが、教室の無い棟からしか見られないので、あんまり見る人はいなさそうだ。
まさかこんな夏の香りを感じ始めた、爽やかな時期に陰湿な事件が起きてしまうなんて。
ナスの苗はせっかく花を咲かせたのにも関わらず、無惨にも切り落とされている。
ナスの花はそのまま地面に落ちている状態だ。
さらにそればかりではなくて、パプリカの実がやっと実ったんだけども、それも熟されることなく誰かに取られてしまったという事件も同時勃発している。
ただまあなんというか、こんなイタズラをやっている犯人を突き止めたいという好奇心は分からんでもない。
でもヤノダンゴ探偵を名乗ることが全然分かんないんだよな。
何だよヤノダンゴ探偵って。矢野貴重選手、ヤノキムチと言ってキムチ売ってるサッカー選手なんだけども、何それと俺のあだ名を合わせているんだよ。
もうサッカー選手になれないんだから矢野貴重選手に憧れるの止めろよ。
でも憧れているだけあって、すごいポストプレーとキープ力、ずっと俺の頂点に君臨しているし、ずっと俺をキープしている。
征喜はずっと幼馴染だし、サッカーに一生懸命打ち込んでいたことも知っているし。
ぶっちゃけ俺は選手として好きというか尊敬していたし、まあ今日もこのヤノダンゴ探偵とやらの助手をしてやるかな……もう一度や二度じゃないし、正直犯人突き止めて周りから賞賛されたりするのも癖になりかけてるし、と思ったところで、征喜が叫んだ。
「キムチ! 分かった! これは見立て殺人だ! いつか人が首を切られます!」
俺は呆れながら、
「急に怖いことを口走るなよ。あとキムチと言うなよ、そのあだ名やめろよ、それじゃもう矢野貴重選手過ぎる。俺たちのペア、矢野貴重選手過ぎるんだよ、それだと」
「でも木村超という名前は略したらキムチじゃん! 矢野貴重選手と同じチョウの文字も入ってるし! それは譲れない! ヤノダンゴとヤノキムチのペアで頑張ろう!」
「ヤノキムチはもはや本家なんだよ、じゃあもう俺の名前はキムチでいいよ、キムチで。ヤノキムチを避けられるならキムチでいい。それはそうと見立て殺人なんて怖いこと口走るなよ」
征喜は少しトーンを下げて、肩を落とした。
いや、見立て殺人であってくれたほうがテンションマックスでいれたのに、じゃぁないんだよ。
征喜はちょっとだけ声の大きさを抑えて、
「とにかく犯人を捜して、ギッタンバッタンにしてやろうぜ」
俺はすかさず、
「シーソーしてる時の擬音じゃん、いや何かボコボコにすることも悪いじゃん」
と言ったところで、周りにいた、ナスとパプリカを育てている一年B組の人たちが声をあげ始めた。
「いやこんなことをするヤツなんて最低だ!」
「ナスの花を切るなんて最悪!」
「いやパプリカのほうが酷いよ、だってせっかく実が成ったのに熟す前に取るってさぁ」
「そうそう、命が完成する前に刈り取るなんて死神じゃん」
「犯人はもう永久追放だな」
あんまりヒートアップするのも良くないと思うんだけどなぁ。
俺が重要視すること、というか興味のあるところは正直犯人捜しよりも、その動機なんだよな。
何でこんなことをするのかが知りたい。
勿論ただのイタズラなら論外なんだけども、もしかしたら何かそうしないといけない理由があるのかもしれない、と考えていると、征喜が、
「とにかく事情聴取開始だ! 何か変な人見た人いるぅっ!」
と言いながら手を挙げたんだけども、オマエが挙手するなよ、とは思った。
一年B組の生徒たちはクラスメイトの顔を見渡しているが、誰も何も知らないといった感じ。
まあ目撃者がいれば簡単なんだけどもな、と思っていると、俺と同じクラスである一年A組のエリーちゃんが話し掛けてきた。
「えっとぉ、やっぱり犯人は犯行を繰り返すだろうから、張って待っていればいいんじゃないんですか?」
エリーちゃんはいつも何か事件があるとやって来るなぁ、こういうの好きなんだろうなぁ、ドラマのような作り物だけじゃなくてマジの事件も。
エリーちゃんは今、人気急上昇中の子役としてテレビやバラエティに引っ張りだこの俳優さんだから、ドラマのような作り物が好きな理由はなんとなく分かるけども。まあこうやって本当の事件にもやって来て勉強しているということなのかな? 真面目だなぁ。
征喜はエリーちゃんの言うことに、うんうん頷いてこう言った。
「じゃあ今日はお泊まりして張りまくるぜ!」
するとエリーちゃんが嬉しそうに、
「えっ! じゃあ私も見張りたいです! キムチくんと征喜くんと一緒に私も張ります!」
そう言ってハイタッチをした征喜とエリーちゃんは、すぐさま俺に向かってハイタッチしようとしてきたので、
「張らないよ、こんだけ大事(おおごと)になれば犯行を繰り返さない可能性もあるし」
でもエリーちゃんは少し不満そうに、
「ぇっ、でも、こういう事件モノでは大体犯行を繰り返すモノですよ?」
と言うと、征喜も同調するように、
「そうだぞ、こういうヤツはもう自分を律すことができないんだ。一度ファウルする選手は何度もファウルしてくるぞ」
俺はでもなぁ、と思いつつ、
「そんな急にサッカーで言われても。でもこんな殺気立っているところに、もう一回来るかな。というか張ってる暇、エリーちゃんには無いでしょ」
エリーちゃんは本当にビックリしているといったような声で、
「えぇっ! そんなことないですよ!」
と言ってから、少し自慢げに、
「私は結構融通利かせてもらえるほうですからね!」
とエリーちゃんは胸を叩き、正直何かスゴっと思ってしまった。
子役に周りが合わさせるほど人気って、やっぱりエリーちゃんは雲の上の存在なんだなぁ。
今こうやって普通に話していることが奇跡みたいだ。
そう考えると、こうやってヤノダンゴ探偵をやっていることも悪くないのかもしれない。役得過ぎる。
征喜はアゴに手を当てながら、
「う~ん……手詰まりだな……持ち物検査でもするか……」
俺は小首を傾げながら、
「熟していないパプリカが出てくるってこと? でもすぐに捨てることもできそうだし」
征喜は少し自信ありげに、
「捨てていたら指紋を検出すればいいだろ? それかVARでチェック」
俺は少し強い口調で、
「中学校内にカメラ設置されていないから。仮に設置されていたらもう全部VARでいいし」
征喜は急に挙手したと思ったら、
「VARチェック!」
と叫んだ。
いや、
「だから無いんだって。急に主審気分になるな。というか俺はちょっと可能性として考えていることがあるんだけども」
とすぐに次の言葉を言おうとしたんだけども、即座にエリーちゃんがカットインしてきて、
「えっ! 何ですか!」
と言ったので、まあその相槌に合わせて言うことにした。
「こういう、植物の病気ということは無いのかな? だってナスの花を切って、そのまま下に置いておく? するにしてもイタズラならぐしゃぐしゃに花を踏んだりしない?」
征喜はほほうと息を吐いてから、
「キムチのイタズラ、ちょっと猟奇的で怖いな。花をぐしゃぐしゃに踏むなんて」
俺は慌てて、
「いや俺はそんなことしないけどね! でもそのまま下に落ち過ぎているというか、踏んだり、ちょっとだけ投げたりもしないのかって話!」
「えっ、じゃあ調べてみますね!」
そう言ってエリーちゃんがスマホをいじり始めた。
俺も征喜も子供用の、制限のあるスマホしか持っていないから、無限に検索できないんだよな。
そんなことを思っていると、目を丸くしたエリーちゃんが声を荒らげた。
「ありました! これナスの病気です! 花が落ちるんですって!」
一年B組の生徒たちは感嘆の息を漏らした。
それと共に、
「すげぇ! こういうことに気付くって!」
「さすがヤノダンゴ探偵だ!」
「エリーちゃんもナイスアシスト!」
それに対して征喜は一年B組のほうに手を振りながら、
「おぅ! やってやったよ!」
と応えていた。いやオマエは何もしていないだろう。手柄泥棒過ぎる。
でも一年B組の盛り上がりは徐々に、
「いやでも熟す前のパプリカは病気じゃないだろ?」
「そうだよ、しっかり持ち去っているし、絶対人の手が加えられている」
「パプリカやったヤツ、マジ処す」
とそっちのほうへ移行していった。まあまだ解決していないからな。
さて、パプリカのほうはしっかり持ち去られている。
そう言えば、
「まあ六月下旬という時期的にそうなんだろうけどさ、取られたパプリカって全部熟していないヤツ?」
と俺が一年B組のほうへ聞くと、
「そうだよ!」
「四個くらい一気に成っていたよな」
「それが全部取られていてさ、最悪だよ、熟す前だよ?」
熟す前にパプリカが取られている、って、もしかしたら、
「そうすることによって苗が痛まないとかあるんじゃないかな、そのこともエリーちゃん、調べてほしいんだ」
するとエリーちゃんは頭上に疑問符を浮かべながら、
「えっとぉ……調べますけども、苗が痛まないってどういうことですか? 病気になりづらいということですか?」
俺は説明するように、
「いやナスの病気の時に思い出したんだけども、苗って最初は未熟な実を取って、苗を疲れさせ過ぎないほうが長持ちするって何か聞いた事あるかもしれない」
征喜がデカい声で、
「じゃあわざとということかぁっ!」
俺はちょっと落ち着いてという手振りをしながら、
「わざと、というか、正しい知識で行なっている可能性がある。だから調べてほしいんだ」
エリーちゃんは敬礼のように手をおでこに当てて、
「分かりました! じゃあ苗ということを検索ワードに入れて調べます!」
俺は即座に、
「いや確か未熟果って言って、字はえっと、こういう」
と言いながら俺がエリーちゃんに近付くと、エリーちゃんが、
「エェッ! キャッ!」
と叫び声を上げて、俺からサッと離れた。
あっ、と思ってしまった。
そうだ、エリーちゃんは天才子役と言われているくらいの今一番人気の俳優さんなんだったんだ、あぁ、不用意に近付いてしまった。
でもそうか、俺、エリーちゃんから若干キモイと思われていたのか、ちょっとだけ落ち込むなぁ……。
でもエリーちゃんはすぐさまいつものエリースマイルになって、
「えっ! いや! 急で驚いただけで! あの! どういう字を書くんですか!」
とスマホを差し出してきたんだけども、キモイヤツがエリーちゃんのスマホを触っちゃいけないので、
「未熟は未熟で、果物の”くだ”で未熟果だよ」
と口頭で伝えておいた。
(キモイヤツの指示なのに)エリーちゃんはちゃんと検索してくれたらしく、
「えぇっ! 最初の十個くらいの未熟果は! 取ったほうがいいですって! それ以降も熟させる実と未熟果を交互に取ることを繰り返したほうがいいですって!」
一年B組はざわざわし始めた。
「そういうことだったのかよ」
「じゃあ言ってくれればいいのに」
「何なんだ、人騒がせな」
でも俺は、
「いや先に騒いだのはみんなのほうなんじゃないかな。こうなってしまって言い出しづらくなったんじゃないかな。つまりそれを行なった人は引っ込み思案の子ということだな。だから犯人捜しはしないでほしい」
と言っておくと、それに同調するように征喜が、
「そうそう! そういうことだから! これでみんな納得だぁ! オー! エイエイオー!」
と叫ぶと、一年B組の生徒たちもその勢いに押されて「エイエイオー!」と言っていた。
何だこの変なカリスマ性。
だから何か事件解決したの、いっつも征喜みたいな印象になるんだよなぁ。
まあ一年B組の生徒たちは納得して、その場を去っていったから別にいいか。
するとエリーちゃんがバンザイしたので、また征喜がハイタッチすると、エリーちゃんが、
「えっ! いや! そうじゃないです! 私はキムチくんとハイタッチしたかったんです!」
と言った時に、嫌われているわけじゃなくて本当にビックリしただけなんだと思って、ホッと胸をなで下ろした。
ハイタッチも恥ずかしながら、させて頂きました。



