元恋人と、今日から同僚です

「……ごめん」
「悲しいこと言わないで」
「うん。もう言わない」

 朝倉の手が、温かかった。
 その温かさが、涙を誘った。

「俺、臆病になってたのかもしれない」

 朝倉が、小さく言った。

「また真帆を傷つけるのが怖くて。だから、先に逃げ道を作ろうとした」
「……」
「でも、それは違うよな。真帆を尊重するって、そういうことじゃない」

 朝倉が、私の手を強く握った。

「真帆を想うなら、一緒に乗り越えることだ。逃げ道を作ることじゃない」
「……うん」
「俺はそばにいる。支える。一緒に頑張る。それが、俺のやりたいことだ」

 朝倉の目が、真剣だった。
 五年前より、ずっと強い目。

「だから、真帆も俺から逃げないでほしい」
「……逃げない」
「約束できる?」
「うん。約束」

 二人で、手を握り合った。
 夕暮れの公園で、涙を流しながら。

「俺たち、大丈夫かな」

 朝倉が、少し不安そうに言った。

「大丈夫。きっと」
「根拠は?」
「ない。でも、大丈夫な気がする」

 朝倉が、ふっと笑った。

「根拠ないのに、大丈夫って言えるのが、真帆らしいな」
「うるさい」
「褒めてるんだよ」

 二人で、小さく笑った。

 何も解決していない。
 仕事のことも、これからの関係のことも、まだ何も決まっていない。

 でも、一緒に乗り越えようとしている。
 今の私たちなら、できると思える。