元恋人と、今日から同僚です

 帰り道、駅までの道を歩く。
 四月の夜は、まだ少し肌寒い。コートを羽織ってくればよかったと後悔する。

 スマホを見ると、LINEの通知が一件。

 朝倉からだった。

『今日の会議、本当にすみません。言い方がきつかったです』

 五年間、連絡を取っていなかった。LINEのアカウントは残っていたけど、ブロックはしていなかった。削除する勇気もなかった。
 そのまま放置していたアカウントから、突然のメッセージ。

 返信するべきか迷う。
 既読をつけたら、何か返さないといけない気がする。でも、何を返せばいいかわからない。

 結局、私はスマホをポケットにしまった。
 既読をつけないまま、駅への道を急ぐ。

 逃げている。わかっているけど、今はまだ向き合う準備ができていない。向き合いたくないわけでもない。けど、今はまだ。

(……先延ばしにしてるだけなんだよね……)

 窓の外を見ながら電車に揺られ、流れていく夜景を眺めながら、ふと、思う。

 五年前、私たちは何を間違えたんだろう。私は何を間違えたんだろう。
 お互いを好きだったはずなのに、なぜ別れることになったんだろう。

 答えは出ない。私の考えは止まったまま。電車はいつも通り進んでいく。

 明日も、編集部に行かなければならない。
 朝倉の顔を見て、平気なふりをしなければならない。

 それが、どれだけ苦しいことか。
 誰にも言えない。

 今は、まだ。