元恋人と、今日から同僚です

「ごめんね、急に呼び出して、こんな話をして」

 美咲さんが、申し訳なさそうに言った。

「恒一が同じ部署になったって聞いてたから気になってて」
「……どうして、今、この話を?」
「恒一がね、最近また落ち込んでるから」

 また。
 その言葉に、胸がざわついた。

「何があったかは知らないけど、きっと真帆ちゃんのことでしょ?
 姉としては、弟の幸せを願ってるから。おせっかいだけど、伝えておきたかったの」
「……」
「恒一は、ずっと真帆ちゃんのことを忘れられなかった。五年間、ずっと」

 五年間。
 朝倉も言っていた。忘れられなかったと。

「真帆ちゃんがどう思ってるかは、わからない。
 でも、もし少しでも恒一のことを考えてるなら——
 ちゃんと、話し合ってあげて欲しくて」

 美咲さんが、私の手を握った。
 温かい手。優しい目。

「言葉にしないと、伝わらないから。五年前みたいに、すれ違わないで」
「……はい」

 それしか、言えなかった。





 美咲さんと別れて、家に帰る。
 電車の中で、ずっと考えていた。

 五年前の真実。
 お互いの説明不足。言葉にしなかったから、すれ違った。

 朝倉は、私を追い詰めたと思っていた。
 私は、朝倉に否定されたと思っていた。
 どちらも、誤解だった。本当は、お互いのことを想っていたのに。

 言葉にしなかったから。
 伝えなかったから。
 すれ違って、別れることになった。

 涙が出そうになった。
 堪えるのに、必死だった。

 そして、今まさに、同じことをしている。
 距離を置きたいと言って、逃げている。言葉にしないで、黙っている。
 五年前と、何も変わっていない。

 変わらなきゃ。
 このままじゃ、また同じ結果になる。

 家に着いて、スマホを見る。
 朝倉のLINEを開く。

 指が震える。
 何を送ればいいかわからない。でも、何か伝えなきゃいけない気がした。

 長い時間、画面を見つめていた。
 結局、一言だけ打った。

 『話したいことがあります。明日、時間もらえますか』

 送信ボタンを押す。
 心臓が、うるさいくらいに鳴っていた。

 すぐに、既読がついた。
 返信が来る。

 『はい。いつでも大丈夫です』

 短い返事。
 でも、その一言に、朝倉の気持ちが詰まっている気がした。

 明日。ちゃんと、話そう。言葉にして伝えよう。

 今度こそ。