元恋人と、今日から同僚です

 午後、仕事に集中しようとしたけど、うまくいかなかった。
 朝倉の姿が視界に入るたびに、意識が持っていかれる。
 目が合いそうになると、慌てて逸らす。

 意識しすぎている。
 自分でもわかってる。でも、止められない。

「結城さん」

 夕方、朝倉が声をかけてきた。

「……何?」
「校正刷りのチェック、終わりました。確認お願いします」
「……机に置いといて」
「はい」

 朝倉が、校正刷りを私のデスクに置く。
 少し間があって、小声で言った。

「何か。俺、気に障ることしましたか?」

 心臓が、ぎゅっと締まった。

「……してないよ」
「なんか避けられてる気がして」

 避けている。
 その通りだ。朝倉は、気づいている。

「気のせいだよ」
「本当に?」

 朝倉の目が、真っ直ぐに私を見ている。
 嘘をつけない目だ。

「……ごめん。ちょっと、頭の中がごちゃごちゃしてて」
「昨日の話のせい?」

 図星だった。
 何も言えずに、黙る。

「……ごめん。余計な事言ってたなら、謝る」
「違う。朝倉は悪くない」
「じゃあ、何が」
「……わからない」

 わからない。
 まただ。わからない、答えが出ない。
 自分が嫌になる。

「少し、距離を置きたい」

 気づいたら、口に出していた。

「……距離?」
「仕事以外では、話さないようにしたい。しばらくの間」

 朝倉の寂しそうな表情。
 ごめん。でも、今の私には、これが精一杯。

「……わかりました」

 朝倉が、静かに言った。

「真帆が、そうしたいなら。俺は、待つって言ったから」
「ごめん」
「謝らないでください。真帆を追い詰めたんなら、俺の方が悪い」

 違う。朝倉は悪くない。
 悪いのは、逃げている私だ。

 朝倉が、自分の席に戻っていく。
 その背中が、いつもより小さく見えた。