元恋人と、今日から同僚です

 昼休み、宮本が声をかけてきた。

「真帆さん、お昼行きませんか?」
「……今日はいい。一人で食べる」
「え?どうしたんですか」

 宮本が、心配そうな顔をする。

「何でもない。ちょっと考え事したくて」
「考え事……昨日の打ち上げで、何かあったんですか?」

 この子は、いつも核心を突いてくる。

「……別に」
「嘘。顔に書いてありますよ、『何かあった』って」

 降参だ。隠し通せる気がしない。

「後で話すから。今は、一人にさせて」
「……わかりました」

 宮本が引き下がってくれた。
 申し訳ないとは思ってるけど、正直、落ち着きたい。

 屋上に行く。
 久しぶりだ。朝倉が来るかもしれないと思って、避けていた場所。
 今日は、来ないでほしい。

 ベンチに座り、空を見上げる。
 五月の空は、青くて高い。雲がゆっくり流れていく。

 昨夜、自分の気持ちに向き合うと決めた。
 でも、どうやって向き合えばいいのかわからない。

 朝倉のことが好きなのか。

 一緒に仕事をしていて、楽しかった。それは事実だ。
 優しくされて、嬉しかった。それも事実。
 好きだと言われて、心臓が跳ねた。これも。

 五年前と同じ失敗を、繰り返さないと言えるのか。
 ……わからない。

 また朝倉に当たることがあるかもしれない。また傷つけるかも。
 
 ……

 考えれば考えるほど、わからなくなる。

 風が吹いて、髪が揺れた。
 気づいたら、三十分以上経っていた。昼休みが、もうすぐ終わる。

 結局、何も答えは出なかった。

 ひとつだけ。朝倉を傷つけることが怖い。

 これだけは、はっきりわかる。