元恋人と、今日から同僚です

「でも、俺は」

 朝倉が、続けた。

「今度は、焦らない。真帆が答えを出すまで、待つ」
「待つって……」
「何年でも。真帆が俺のことをどう思うか、ちゃんと考えて、答えが出るまで」

 何年でも。
 そんなこと、言っていいのだろうか。

「前は、俺が焦りすぎた」

 朝倉が、少し視線を落とした。

「五年前、真帆が仕事で大変な時に、自分の気持ちを押し付けてた。」
「……そんなこと」
「あったよ。だから、別れることになった」

 朝倉が、また私を見る。

「今度は、同じ失敗をしない。真帆のペースに合わせる。だから——」

 朝倉の声は、静かだけど力強かった。
 周囲の喧騒の中で、その声だけがはっきり聞こえる。

 少し間を置いて、朝倉は言った。

「俺は逃げない。真帆が逃げたい時は、待ってるから」

 その言葉に、涙が出そうになった。
 酔っているせいかもしれない。でも、それだけじゃない気がした。
 朝倉の覚悟が、伝わってきたから。

 五年越しの想いが、その言葉に詰まっていたから。

「……ずるい」
「何が」
「そんなこと言われたら、逃げられないじゃん」

 朝倉が、ふっと笑った。

「逃げなくていいですよ。逃げたいなら、逃げてもいい。俺は待ってるから」

 優しい声。
 五年前と同じなのに、違う。もっと深くて、もっと確かな。

「……ずるい」

 それしか言えなかった。