元恋人と、今日から同僚です

 朝倉がグラスに水を入れて戻ってきた。

「どうぞ」
「ありがとう」

 水を飲む。冷たくて、頭がすっきりする。

「ねえ、朝倉」
「はい」
「なんで、そんなに優しいの?」

 聞いてから、しまったと思った。
 酔っているせいで、思ったことがそのまま口に出てしまった。

「優しい、ですか」
「うん。私、朝倉に当たったりしたのに」

 朝倉が、少し考えてから言った。

「別に、優しくしてるつもりはないですよ」
「じゃあ何?」
「……癖、ですかね」

 癖。

「真帆が気になるんです。疲れてないか、無理してないか。
 見てると、つい世話を焼きたくなる」

 真帆。名前で呼ばれて、心臓が跳ねた。
 周囲は騒がしいから、聞こえていないとは思う。

「……そういうの、やめた方がいいよ」
「どうして」
「私、勘違いするから」

 言ってから後悔した。
 何を言っているんだ、私は。酔っているにしても、ひどい。

 朝倉が黙っている。
 その目が真っ直ぐに私を見ている。

「勘違いでもいいですよ」
「……え」
「勘違いしてくれて、構わない」

 頭が、真っ白になった。

「俺、前に言いましたよね。まだ真帆のことが好きだって」
「……うん」
「それ、変わってないです」

 心臓が、うるさいくらいに鳴っている。
 周囲の喧騒が遠くなる気がした。

「だから、勘違いしてくれていい。好きだから。それだけ」

 朝倉の目は真剣だった。
 嘘を言っているようには見えない。