元恋人と、今日から同僚です

「まず、好奇心かな。いろんなことに興味を持つこと。
 ネタは、日常のどこにでも転がってるから」

「なるほど」
「そして、人との繋がり。現場の皆さんと信頼関係を築くこと。
  ライターさんとか、カメラマンさんとか、デザイナーさんとか」

 朝倉がメモを取る。
 真面目だな、と思った。こういうところは、昔から変わらない。

「あとは、体力かな。締め切り前は地獄だから。体力勝負になることが多いね」
「体力、ですか」
「うん。ちゃんと食べて、寝ること。忙しいと忘れがちだから」

 言ってから、気づいた。
 五年前、朝倉が私に言っていたことと、同じだ。

 「もっと休んだ方がいい」
 「ちゃんと食べてる?」
 「身体を壊すよ」

 朝倉は、ずっとそれを言っていた。
 私が聞く耳を持たなかっただけで。

「……どうしました?」

 朝倉が、不思議そうな顔で私を見ている。
 黙り込んでいたことに、気づいた。

「ううん、何でもない」
「……何か、思い出しました?」

 鋭い。さすがに、長く付き合っていただけある。
 私の表情の変化を、見逃してくれない。

「……ちょっとね」
「何を」

 聞かれて、迷った。
 言うべきか、言わないべきか。

「……五年前のこと」

 口に出すと、空気が変わった。
 朝倉の表情が、少しだけ硬くなる。

「朝倉が私に言ってたこと、思い出した。休めとか、身体を大事にしろとか」
「……ああ」
「今、私が自分で同じこと言ってる……」

 コーヒーカップを両手で包む。
 温かさが、少しだけ心を落ち着かせる。

「当時は、うるさいなって思ってた。仕事の邪魔をするなって」
「……うん」
「でも、今思うと。朝倉は、ただ心配してくれてただけだったんだよね」

 朝倉が、黙っている。
 何かを言いたそうな、でも言葉を探しているような、そんな表情。

「ごめん。当時は、わからなかった」

 私は頭を下げた。
 五年越しの謝罪。遅すぎるけど、言わないよりはましだと思った。

「……顔を上げてください」

 朝倉の声。
 顔を上げると、朝倉は少しだけ笑っていた。