元恋人と、今日から同僚です

 打ち合わせが終わり、席に戻る。
 夕方六時。そろそろ定時だ。

 今日は、珍しく残業がない。
 スケジュールに余裕ができて、早く帰れる日だった。

「結城さん」

 帰り支度をしていると、朝倉が声をかけてきた。

「何」
「今日、このあと時間ありますか?」

 心臓が跳ねる。
 また、あの話だろうか。話し合いたいという、あの——

「……何の用」
「ちょっと、聞きたいことがあって。仕事のことで」

 仕事のこと。
 少し拍子抜けした。同時に、どこか安心した。

「いいよ。何?」
「ここじゃなくて、外で話せませんか。ちょっと長くなりそうなので」

 外で。
 二人きりで。
 断る理由が、見つからなかった。

「……わかった。下のカフェでいい?」
「はい」





 ビルの一階にあるカフェ。
 仕事終わりの時間帯で、そこそこ混んでいた。
 窓際の席に向かい合って座る。

「で、聞きたいことって?」

 コーヒーを啜りながら、私は切り出した。
 朝倉が少し間を置いて、言った。

「編集の仕事を、長く続けていくコツって何ですか?」
「……コツ?」

「俺、営業企画からの異動で、正直、最初は不安だったんです。
 畑違いだし、うまくやっていけるかどうか」

 朝倉が、コーヒーカップを見つめながら話す。

「でも、結城さんと仕事をして、少し見えてきた気がするんです。
 編集の面白さというか、やりがいというか」

「……そう」
「だから、ちゃんとやっていきたいと思って」

 真剣な目。
 仕事の話だった。本当に、仕事の話だった。

「コツ、ね……」

 考える。
 編集の仕事を続けるコツ。私自身、意識したことがあまりなかった。