元彼が職場の後輩に!?

 朝倉が編集部に来て、三日が経った。
 私は徹底的に距離を取っている。

 会話は業務上の話題だけ。それ以外は、極力関わらないようにしている。
 昼休みは外に出るか、給湯室で時間を潰す。屋上には行かなくなった。朝倉がいるかもしれないから。
 退勤時間も、わざとずらしている。朝倉より早く帰るか、残業して遅く帰るか。エレベーターで二人きりになるのだけは、絶対に避けたかった。

 我ながら、子供じみているとは思う。
 二十九歳にもなって、元恋人を避けて逃げ回っている。
 でも、そうするしかなかった。

「結城さん。この企画書、確認お願いします」

 朝倉が私のデスクにやってくる。
 教育係だから仕方がないのだ。仕事の質問には答えなければならない。

「……どこ?」
「三ページ目のコスト試算のところ。これで妥当かどうか」

 企画書を受け取り、ざっと目を通す。
 外部ライターへの発注費、撮影費、デザイン費。新人にしては、よくまとまっている。営業企画にいただけあって数字の感覚は悪くない。

「概ね問題ないけど、撮影費の見積りがちょっと甘いかな。このロケ地だともう少しかかるかもしれないわ」
「具体的にはどのくらいですか?」
「二割増しくらいで見積もっておいた方がいいと思う。あと、予備費が入ってないかな」

 朝倉がメモを取る。真剣な横顔。
 視界に入れないようにしていたのに、つい見てしまった。

「わかりました。修正して、また持ってきます」
「……うん」

 それだけのやり取り。
 朝倉が自分の席に戻っていく。私は、止めていた息をそっと吐いた。

 大丈夫。仕事だけなら、まだやっていける。
 感情を挟まなければ問題ない。