元恋人と、今日から同僚です

 五年前は、こんな一面を知らなかった。
 私は、朝倉の何を見ていたんだろう。
 一人の人間として、ちゃんと見ていなかったんじゃないだろうか。

 「五年前も、そうだったのかな」

 弱さを見せられる相手。支え合える相手。
 本当のパートナーって、そういうものなんじゃないだろうか。

 当時、そうじゃなかった。
 お互いに、本当の自分を見せていなかった。だから、すれ違った。
 表面だけを見て、わかったつもりになっていた。本当は何も見えていなかったのに。

 ----今さら、そんなことに気づいても遅いけど。

 電車が駅に着く。
 ドアが開き、人が降りていく。
 私も立ち上がり、ホームに降りた。



 家に帰って、シャワーを浴びる。
 髪を乾かしながら、明日のことを考えた。

 撮影は十時から。夕方までかかる予定。
 朝倉と一日中一緒にいることになる。

 不安と。それから----少しだけ、楽しみな気持ちがあった。

 楽しみ?
 私は、何を楽しみにしているんだろう。

 朝倉の仕事ぶりを見るのが?
 朝倉と一緒に過ごすのが?

 わからない。自分の気持ちが、わからない。

 ドライヤーを止めて、鏡を見た。
 疲れた顔。目の下にクマがある。最近、ちゃんと眠れていない。

 スマホが鳴った。
 朝倉からのLINE新着。

 『明日、よろしくお願いします。いい撮影にしましょう』

 シンプルなメッセージ。
 仕事の連絡、それだけ。私情は一切ない。

 これが私が望んだ関係。同僚としての適切な距離。

 ......のはずだ。

 指が、画面の上で迷う。