元恋人と、今日から同僚です

 五年前。
 私は、朝倉に弱みを見せられなかった。
 仕事が辛くても、疲れていても、大丈夫なふりをしていた。
 心配されたくなかった。

 結果、朝倉には「仕事ばかり」と見えていたのかもしれない。
 私が何を感じているのか、何に苦しんでいるのか。
 伝わっていなかったのかもしれない。

「......あったよ」

 気づいたら、口に出していた。

「辛いことも、しんどいこともあった。でも、言えなかった」
「どうして」
「......わからない。弱いところを見せたくなかったのかも」

 朝倉が、じっと私を見た。
 その目が、何かを言いたそうにしている。

 でも、何も言わなかった。

「......駅、着いたね」

 私は話を打ち切った。
 これ以上、踏み込まれたくなかった。

「お疲れ様。明日、よろしく」
「はい。よろしくお願いします」

 改札を抜けて、別々のホームへ向かう。
 朝倉の背中が見えなくなるまで、私はその場に立っていた。



 会社に戻り、明日の準備を終わらせた。
 九時過ぎ、編集部を出る。

 帰りの電車の中で、窓の外を見ながら考えた。

 朝倉の仕事ぶり。
 予想以上に優秀だった。気配りができて、先を読める。
 コミュニケーション能力も高い。