元恋人と、今日から同僚です

 下見を終えて、スタジオを出た。
 夕方の五時。まだ明るい。

「このあと、どうします?」
「私は一度会社に戻る。明日の最終確認があるから」
「俺はこのまま帰りますね」

 二人で駅に向かって歩く。
 久しぶりに、朝倉と並んで歩いている。
 意識しないようにしていたのに、どうしても意識してしまう。

「結城さん」
「何」
「明日、何時に集合ですか」
「七時半に現地。八時から搬入、十時から撮影開始」
「わかりました」

 朝倉が頷く。

 少し間があって、また口を開いた。

「緊張しますね」
「......そう?」
「初めての撮影なんで。失敗しないか、心配で」

 意外だった。
 さっきまで堂々としていたのに。テキパキと動き、抜けもない。

「緊張するのは普通だよ。私だって、最初の撮影は胃が痛かった」
「結城さんでも?」
「当たり前でしょ。誰だって最初は不安なものだし」

 朝倉が少しだけ目を丸くした。
 それから、ふっと笑った。

「真帆----じゃなかった、結城さんも、そういうことあるんですね」
「......どういう意味?」
「いつも完璧に見えるから。弱みを見せないタイプだと思ってた」

 完璧。弱みを見せない。
 そう見えていたのか。

「......完璧なわけないでしょ。ミスだってするし、落ち込むこともある」
「でも、見せないじゃないですか」
「見せたくないだけ」

 言ってから、しまったと思った。
 余計なことを言った。

 朝倉が、少し黙った。
 駅が近づいてくる。

「五年前も、そうだったのかな」
「......何が」
「辛いこととか、しんどいこととか。俺に見せなかっただけで、本当はあったのかなって」

 その言葉に、足が止まりそうになった。