元恋人と、今日から同僚です

 初めての現場なのに、緊張している様子がない。
 堂々としている、というよりは、慣れた感じだ。

「結城さん」

 朝倉が振り返った。

「何?」
「ここの電源、容量は大丈夫ですか?
 照明機材をフルで使うと、ブレーカーが落ちることがある。
 って、聞いたので。」

 その質問に、少しだけ驚いた。
 撮影現場の電源問題は、経験者ですら見落としがちだ。
 新人が最初の撮影で、知っているわけがない。

「......よく知ってるね」
「以前、営業企画でプロモーション撮影に立ち会ったことがあるんです。
 その時、電源トラブルがあって」
「なるほど。大丈夫、ここは容量に余裕があるスタジオだから。
 でも、確認してくれたのはいい心がけだね」

 朝倉が、また少し笑った。
 褒められて嬉しそうな、でもどこか照れくさそうな笑顔。

 その表情を見て、思った。
 私は、この人のことをちゃんと見ていなかったのかもしれない。

 五年前、付き合っていた頃。
 お互い忙しくて、仕事の話をする余裕がなかった。
 デートの時間を捻出するだけで精一杯だった。

 たまに会えても、疲れていて、深い話なんてできなかった。

「今日は疲れた」
「俺も」

 そんな会話ばかりだった気がする。

 朝倉が営業企画部でどんな仕事をしているのか、具体的に聞いたことがなかった。
 クライアントとどう接しているのか、企画をどう通しているのか。
 何を大事にして働いているのか。

 恋人なのに、知らなかった。知ろうとしなかった。
 自分の仕事をこなすだけで必死で、朝倉のことまで気が回っていなかった。

 だから、知らなかった。
 朝倉がどんなふうに仕事をしているのか。
 どんな顔で働いているのか。

 今、こうして一緒に仕事をして、初めて見る顔がたくさんある。