元恋人と、今日から同僚です

「質問は?」
「一つ、いいですか」

 朝倉が顔を上げる。

「この企画、結城さんにとって大事なものですよね」
「……まあ、そうだね。久しぶりに自分で通した企画だし」
「なら、邪魔にならないようにします。
 俺がいることで、やりにくくなるのは本意じゃないんで」

 その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。
 邪魔。そんなふうに思っているわけじゃない。
 思っていないはずなのに、私の態度がそう見せてしまっているのかもしれない。

「……邪魔とは思ってないよ」
「そうですか」

 朝倉は、それ以上何も言わなかった。
 私も、言葉が続かなかった。

 会議室に、沈黙が落ちる。
 仕事の話は終わった。でも、席を立つ気になれない。

「朝倉」

 気づいたら、名前を呼んでいた。

「……何ですか?」
「先週のこと。返事、変わってないから」

 なぜ、そんなことを言ったのか。自分でもわからない。
 念押しのつもりだったのか。それとも、別の何かか。

 朝倉が、少し笑った。
 寂しそうな笑みだった。

「わかってます。仕事に私情は持ち込みません。安心してください」
「……うん」

 それだけ言って、私は立ち上がった。

「打ち合わせ、終わり。何かあったら声かけて」
「はい」

 会議室を出る。
 廊下を歩きながら、深呼吸した。
 大丈夫。仕事だけなら、やっていける。
 感情を挟まなければいいんだ。

 自分に、何度もそう言い聞かせた。

 何度も。