元恋人と、今日から同僚です

 言い切った。
 胸が痛い。でも、これでいい。これが正しい。

 朝倉は黙ったまま、私を見上げていた。
 その目が、悲しそうで、苦しくなる。

「……そうか」

 長い沈黙の後、朝倉が言った。

「わかった。無理強いはしない」

 立ち上がり、私と向き合う。

「でも、一つだけ言わせてくれ」

 朝倉の目が、真っ直ぐに私を見る。

「俺は、まだ真帆のことが好きだ」

 息が止まった。

「五年経っても、忘れられなかった。
 他の人と付き合っても、どこかで比べてた。
 だから、同じ部署に配属が決まった時、運命だと思った」

 運命。
 そんな言葉、信じていない。信じていないはずなのに、胸が締め付けられる。

「今は無理でも、いつか気が変わったら??
 その時は言ってくれ。俺は、ずっと待ってる」

 それだけ言って、朝倉は踵を返した。
 公園を出て、駅の方へ歩いていく。
 私は、その背中を見つめることしかできなかった。





 家に帰っても、朝倉の言葉が頭から離れなかった。

 「まだ真帆のことが好きだ」

 五年も経って、そんなことを言われるとは思わなかった。
 私は、どうなんだろう。朝倉のことを、まだ好きなんだろうか。

 わからない。
 好きかどうか以前に、もう一度傷つくのが怖い。
 あの時の痛みを、もう一度味わいたくない。

 だから、拒否した。
 間違っていないはずだ。

 ベッドに横になり、天井を見つめる。
 朝倉の顔が浮かぶ。五年前の朝倉。そして、今の朝倉。
 変わったところもあれば、変わらないところもある。

 「俺は、ずっと待ってる」

 その言葉が、胸の奥に残っている。
 振り払いたいのに、消えない。

 私は、目を閉じた。
 明日からも、朝倉と顔を合わせなければならない。
 告白を断った相手と、同じ部署で働く。

 それが、どれだけしんどいことか。

 今から、想像するだけで胃が痛くなる。
 でも、これでよかったんだと思う。

 これが、正しい選択だったはず……
 そう自分に言い聞かせながら、眠りについた。

 眠りは浅く、何度も目が覚めた。