元恋人と、今日から同僚です

 定時を過ぎて、私と朝倉はオフィスビルの近くにある小さな公園にいた。
 四月の夜。まだ少し肌寒い。一人分の距離を空けて、ベンチに並んで座る。

 沈黙が流れる。
 先に口を開いたのは、朝倉だった。

「真帆」
「……結城さん、でしょ」
「二人きりの時くらい、いいだろ」

 反論できなかった。
 公園には、他に誰もいない。職場では、と言ったのは自分だ。

「俺、ずっと後悔してた」

 朝倉が、前を向いたまま言った。

「五年前、真帆の気持ちを、最後まで聞かなかった。
 ちゃんと話しをしないで別れただろ?
 それが、ずっと引っかかってた」

 私も、同じだった。
 お互いの気持ちを、ちゃんと言葉にしなかった。
 わかってくれるはずだと思い込んで、伝える努力をしなかった。

「だから、もう一度ちゃんと話したい。
 あの時、何がダメだったのか。お互い、何を思ってたのか」

 朝倉がこちらを向く。

「それを整理しないと、俺は前に進めない」

 前に進む。
 その言葉が、胸に刺さった。

「……前に進むって、どういう意味?」
「わからない。話してみないと」
「話して、どうなるの。もう一度付き合うとか、そういうこと?」

 直球で聞いた。
 朝倉が少し黙る。

「……わからない。でも、可能性がゼロだとは思ってない」

 心臓がうるさい。
 可能性。そんなもの、あるんだろうか。
 五年も経って、お互い変わって、それでも??

 いや。
 ダメだ。

「……無理だよ」

 声が震えそうになるのを、必死で抑えた。

「私たち、一回終わってるの。
 価値観が合わないって、お互いわかって別れたんだから。
 今さら話し合ったところで、その事実は変わらない」

 朝倉が何か言おうとする。
 それを遮って、続けた。

「私は、もう振り返りたくない。
 五年前のことは、過去。
 今さら掘り返しても、意味もなく傷が広がるだけ」

 立ち上がる。
 朝倉を見下ろす形になった。

「ごめん。あなたの気持ちはわかった。
 でも、私には無理。このまま、同僚として、適切な距離で。
 それが一番いいと思う」