元恋人と、今日から同僚です

 でも、それを認めたくなかった。

 朝倉が、じっと私を見ている。
 その目が、五年前と同じで、苦しくなる。

「……わかった」

 朝倉が、静かに言った。

「無理強いはしない。でも、俺は待ってる。
 真帆が話したいと思うまで。待ってる」

 その言葉を残して、朝倉はエレベーターに乗り込んだ。
 ドアが閉まる。私は、その場に立ち尽くしていた。

 膝が震えている。
 心臓がうるさい。
 涙が出そうになるのを、必死で堪えた。

 終わった話は、終わったままでいい。

 そう思っているはずなのに。
 なんで、こんなに苦しいんだろう。



 家に帰っても、眠れなかった。
 ベッドに横になって、天井を見つめる。

 朝倉の言葉が、頭の中でリピートする。

 「逃げてるだけだろ」
 「俺は待ってる」

 逃げている。かもしれない。いや、そうだ。
 私は、朝倉と向き合うのが怖い。
 五年前の傷を、もう一度開くのが怖い。

 でも、向き合ったところで、何が変わるんだろう。
 もう一度付き合うなんて、考えられない。
 今さら「あの時はごめん」なんて言われても、どうしていいかわからない。

 過去は、過去だ。
 変えられない。やり直せない。

 それなら、このまま忘れた方がいい。
 時間が経てば、また普通になれる。
 同僚として、適切な距離感で。

 そう自分に言い聞かせて、目を閉じる。

 眠れない夜が、長く続いた。