元恋人と、今日から同僚です

 その瞬間、何かが切れた。

「そうだよ。今の私には、仕事が一番大事。それの何が悪いの?」

 売り言葉に買い言葉だった。
 本心を言えば、朝倉のことも大事だった。
 でも、仕事を否定されたくなかった。

 朝倉は黙り込んだ。
 長い沈黙の後、静かに言った。

「俺たち、価値観が違うのかもな」

 その言葉が、引き金になった。
 お互いに譲れないもの、理解できないものがある。
 
 だから、一緒にいられない。

 別れ話は、驚くほどあっさり終わった。
 泣きもしなかった。引き止めもしなかった。

「そうかもね」

 私は一言だけ残して、部屋を出た。

 その夜、一人でアパートに帰り、ベッドに潜り込んだ。
 朝まで眠れなかった。

 泣いたのは、次の日の夜だった。一日遅れで、涙が溢れた。



 思い出すと、今でも胸が痛む。
 あの時の自分は若かった。仕事に必死で、周りが見えていなかった。
 朝倉の心配を、素直に受け取れなかった。

 でも??

 朝倉だって、私の気持ちをわかってくれなかった。
 頑張りたい時に、水を差すようなことを言った。
 応援してほしい時に、ブレーキをかけた。

 どっちが悪いとか、正しいとか、そういう話じゃない。
 ただ、合わなかった。その時の私たちは合わなかった。

 それだけのこと。
 終わった話だ。

 今さら蒸し返しても、何も変わらない。
 五年という時間は、もう戻ってこない。

 パソコンの画面を見つめながら、自分に言い聞かせる。
 無理に掘り返す必要はない。

 終わったことは、終わったままでいい。