元恋人と、今日から同僚です

 編集部に戻ると、空気が少し変わっている気がした。
 視線を感じる。ひそひそ話をしている人がいる。
 気のせいだと思いたかった。でも、そうじゃない気がする。

 席に着くと、隣のデスクの先輩——田村さんが話しかけてきた。
 田村恵子、三十四歳。ファッションページ担当で、編集部の古株だ。
 社内でも有名な噂好きだ。

「結城さん、ちょっと聞いていい?」

 嫌な予感がする。

「何ですか」
「朝倉くんと、昔から知り合いなの?」

 呼吸が止まった。

「……どうしてですか?」
「なんか、二人の雰囲気が変だなって。
 他の人にはあんなに冷たくないのに、朝倉くんにだけ素っ気ないでしょ?」

 やっぱり、バレている。
 私の態度は、思った以上に不自然だったらしい。

「別に、冷たくしてるつもりはないですけど」
「そう? 朝倉くん、ちょっと可哀想かなって思ったんだけど」

 可哀想。
 その言葉に、少し後ろめたさを感じてしまった。

「……気をつけます」
「うん。教育係なんだから、もうちょっと優しくしてあげてね」

 田村さんが自分のデスクに戻っていく。
 私は、パソコンの画面を見つめながら、深く息を吐いた。

 噂になっている。
 私と朝倉の関係が、編集部内で話題になっている。
 
 最悪だ。本当に、最悪だ。