元恋人と、今日から同僚です

 水族館を出て、近くのカフェに入った。
 窓際の席で、コーヒーを飲みながら話す。

「今日、楽しかったな」
「うん。水族館って、こんなに楽しいと思わなかった」
「やっぱ、ペンギンだな。また一緒に来よう」

 朝倉が、コーヒーを啜りながら、私を見た。
 何か言いたそうな目。

「……何」
「いや、ちょっと思い出して」
「何を」
「五年前、水族館に行こうって約束してたこと」

 五年前。
 そんな約束、あっただろうか。

「……覚えてない」
「俺は覚えてる。真帆が『行きたい』って言ってたのに、結局行けなかった」
「そうだっけ」
「そうだよ。あの頃は、二人とも忙しくて。週末もなかなか会えなくて」

 思い出してきた。確かに、そういう話をしたことがある。
 『いつか行こうね』と言ったまま、終わった。

「今日、やっと約束が果たせた」
「……大げさだね」
「大げさじゃないよ。俺にとっては、ずっと心残りだったんだ」

 朝倉の目が、真剣だった。

「あの頃、真帆のしたいことをさせてあげられなかった」
「……」
「だけど、今は違う。約束は、ちゃんと守りたい。
 真帆がしたいこと、行きたいところ、全部叶えたい」

 その言葉が、胸に響いた。
 朝倉は、ずっとそう考えていたんだ。

 五年間も、ずっと。

「……ありがとう」
「礼はいいよ。俺が勝手にやってることだから」
「でも、嬉しい。朝倉がそう思ってくれてるのが」

 朝倉が、少し照れくさそうに笑った。