ぶつかりおじさん幽霊にぶつかられたら恋人と別れることになるらしい

「ねえ、知ってる?」
 美麻(みま)の言葉に、私は首をかしげた。
 中学校の放課後の教室、夕陽が差し込む中で、美麻は神妙に話す。
「駅に出るっていうぶつかりおじさん幽霊」
「男の人にはけっして見えないっていう噂だよね」
「そうそう。若い女にばっかりぶつかってきて、ぶつかられたら絶対に恋人と別れるっていう。好きな人がいた場合は、絶対に恋が実らないっていう。どう思う? いると思う?」
「いるわけないよ」
 私はけらけらと笑った。
「やっぱそうかな……」
「だって、ほかにもあるじゃん。ぶつかられたら不幸になるとか一週間で死ぬとか。そんな人見たことないし。よくある都市伝説じゃん」
「見えないのは幽霊だからだよ」
 深刻な顔で言う美麻に、私はまた笑う。
「自分が彼氏も好きな人もいないからって、余裕だね」
 美麻は最近、片思いの相手と付き合い始めたばっかりだ。
「大丈夫だから。気にしない方がいいよ」
「彼もそう言ってくれたんだけどさ……」
 それからは彼がどんなに慰めてくれたか、どんな素敵な人か、さんざんのろけを聞かされて、私は苦笑いをして話を聞いた。

 二か月後、私は思いがけない事態になっていた。
 なんと、彼氏ができたのだ!
 そうなってくると、急にぶつかりおじさんのことが気になる。
 学校へは徒歩通学だから、普段は駅を使わないけど……。
 きっと大丈夫。
 そう思っていた矢先だった。
 学校から帰る途中、美麻が真剣な顔で切り出した。
「ねえ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「一緒に駅に行って」
「どうして!?」
 彼氏ができてからというもの、なるべく駅には行かないようにしていた美麻が、珍しい。どうしたんだろう。
「私、彼と別れたいの」
「どうして!?」
「サッカー部の牧野くんが気になって来て、彼に冷めた」
 最近まであんなに仲が良かったのに、と私は驚いた。
「別れ話するのもだるいじゃん。ケンカになったら嫌だし。でね、ぶつかりおじさん幽霊にぶつかられたら、自然に別れられると思うの。だけどひとりじゃ怖くって。お願い、一緒に来て!」
「ええ……」
 私はどう答えようか困ってしまった。
 そのおじさん幽霊がもし自分にぶつかってきたら?
 都合よく美麻にだけぶつかる?
 思いがけず、恋と友情を天秤にかけるみたいになっちゃってない?
「ねえ、お願い! ぶつかりおじさん幽霊なんていないんだったらいいよね!」
 この前、強気で否定したせいで、嫌だとは言いづらい。
「今日だけだよ……」
 私が答えると、美麻は私に抱き付いて喜んだ。
「ありがと! さすが親友!」


第一話 終