「もう、怒んないでよ。百には心に決めた人がいるってちゃんと知ってるから」
「べつに怒ってないし、そんな人もいないよ」
「つまんないー、早く私に彼氏紹介してよ、百」
項垂れる様子に悪いけど、私が紹介するよりユカが紹介してくれる未来のほうが現実的だ。それほど私はたぶん恋愛と無縁。たぶん、というか確実に。
机に突っ伏したユカの頭を撫でる。
私より残念そうな仕草につい笑ってしまった。
「ドンマイ、ユカ」
「なんであんたが励ますのよ」
⸝⋆⸝⋆
⸝⋆⸝⋆
新学期初日はあっという間に時間が過ぎ、放課後になっていた。初日に提出する書類をうっかり忘れていた私を鼻で笑ったユカは当然ついてきてくれるはずもなく、学校に逆戻りする羽目になり、足取りが重い。
なんだかんだ、いつも通りじゃないのは私も同じだったらしい。
夕方の日差しが影を伸ばす。
新学期初日だっていうのに部活に勤しむ野球部たちの声が響いて、ちょっと早歩きで昇降口に向かった。雑に靴を履き替えて急ぐ。
職員室に一直線に向かい、担任に声をかけると、驚いたような表情で凝視された。
「すみません。今日提出予定だった書類があって、」
なるべく大きな声にならないように努めながら説明した私に、担任は書類を受け取り眉を下げる。なんだか申し訳なさそうな顔をされて思わず首を傾げた。
「ありがとうな。明日でもよかったんだぞ」
「え、」
なんだ。そういうこと。
ちょっと無駄足になったらしい。
「そうでしたか」
気苦労と労力が一気に肩にのしかかってきた勢いで肩を落としてしまいそう。私はいつも詰めがあまい。身に染みてわかる事柄に声色がどんよりする。
そんな様子を見て慰めるようにわたわたとし始める担任は、体育会系の熱い教師だと思っていたけどかなり気遣い屋らしい。
「まぁ、急ぎで貰えてよかったから。気にするな。帰り、気をつけるんだぞ」
「、はい」
ぺこっと頭だけ下げて職員室を後にした。



