謝罪の言葉を口にすると、彼は驚いたように目を見開いた。
「それは……こっちの台詞だよ。ごめんね、気つかわせて」
明らかに邪魔をしてしまった手前、首を横に振ることしかできない。
べつに急ぎの用件なんてなく、思いつきで教室に寄ってしまった私に非がある。教室の真ん中に佇む彼には謝ることなんてないから。
あんなに爽やかな笑顔も、夕陽を受けると少し違く見える。
そんなどうでもいいことが頭をよぎった。
「その、追いかけなくていいの?」
「え」
私の言葉に首を傾げた外薗 壱生は、少し黙って、納得したようにああ、と零す。
「今は、俺、行かないほうがいいんじゃないかな」
困ったような声色に理解した。
修羅場じゃなくて、告白現場だったらしい。
「そっか」
この彼がもてるのはユカから聞いてわかっていたけどやっぱり本当のことなんだ。
でも邪魔をしてしまった後味のわるさは変わりなく、相槌以降の言葉が継げず静寂が訪れる。聞こえるのは窓の外の、短い金属音と部活生の掛け声。
何をするわけでもなく、当初の目的を忘れてしまい、気まずさから逃げようと再度顔を上げた。
「じゃ、また」
黙って去るのもなんだと思ってそう告げる。
踵を返し、引き戸を閉めようと手をかけると、
「待って」
彼の声がよく通って。
慌てたような足音が近づいてきた。
「あのさ、」
見上げた切れ長の眼は、すこし揺らいで。
意外と背が高いな、なんて正直場違いなことを勘がながらその眼を見返す。揺らいだ彼の眼は細められて、すぐに笑みが浮かべられた。
教室の静寂と同じくらい、静かな色が沈んでいて、あの爽やかな雰囲気が微塵も感じられないほど。
「一緒に帰っていい?」
気おされたわけじゃないのに、気づけば頷いていた。



