誰恋ゲーム

 あなたは誰恋ゲームを知っていますか?

ルール

その1
プレイヤーは好きな人がいるかどうかを答える。

その2
プレイヤーはその他のプレイヤーの好きな人を当てることができれば勝利となる。

その3
好きな人はその場にいなくても良い。

その4
プレイヤーは好きな人を開示することができる。

その5
このゲーム中、嘘をついても良い。嘘をついたプレイヤーはその嘘を見破られなければ勝利となる。

その6
嘘を見破ったプレイヤーは勝利となる。

その7
プレイヤーは途中で棄権することはできない。

その8
ゲームの開始はプレイヤーが発声した後となる。

その9
敗北したプレイヤーは●×■▲


 私、渡部咲希は片想いをしている。

 相手はクラス1のイケメン、三浦碧生くん。スラッと背が高くてスタイルがよくて、優等生だし運動神経も抜群だし。

 みんなから慕われてるような人気者なんだ。

 だから私と同じように三浦君のことが好きな子はクラス外にも多くて……。

 私は近づくことも出来ないまま、ひっそりとこの気持ちを隠し持ってる。

 いつか告白しようだなんて思わない。

 きっと三浦くんみたいな人気者にはモブの私なんか眼中にないから。

 振られて落ち込むより、かっこいい三浦くんをこっそり眺めている方がいい。

 そう思っていたのに、中学一年生の夏。突然にある『ゲーム』が始まってしまったんだ。

「今日の日直は渡辺と加藤な。これ職員室まで持ってきてくれ」

 朝会の終わりで、先生は教卓に積み重なった提出物を指さした。

 加藤くんっていうのは、クラスの男の子。野球部に所属していて年中日焼けしている。三浦くんのお友達なんだ。

「うげー。よりにもよって今日多いじゃん」

 加藤くんは顔をしかめる。

 提出物はクラスのみんな分。山のように積みあがってた。

 二人で持てるかな。

 心配していたら私たちの間に人影が現れた。

「俺手伝うよ。職員室でしょ?」

「三浦~。助かる」

 ふいの三浦くんの横顔に私の心臓がドキッと跳ねる。

 ま、まさか三浦くんとこんな至近距離で会えるなんて!

 じっと見つめていたら視線に気が付いた三浦くんがふわっと微笑む。

「じゃ、俺これ持つね」

「あ、ありがとう」

 今寿命がキュッと縮んだ気がするよ!

 どくどくと波打つ鼓動を必死に抑えながら後に続こうと手を伸ばすと、「ちょっと待って~」とどたばた走ってくる音が聞こえた。

「ふう。ぎりセーフ!」

 ポンッとノートを置いたのは千葉くんと佐藤さん。

「ぎりセーフじゃないっての。もっと早く出せよ」

「わりぃ。だって佐藤が写させてほしいって言うから~」

「あははっ、ごめーん」

 加藤くんが顔をしかめると、千葉くんはあっけらかんと笑う。

 千葉くんと佐藤さんは言わずと知れたうちのクラスのカップルなんだ。

 その仲良しっぷりはこっちが見ていても清々するくらい。

 二人とも明るいから、そんな関係私もあこがれる。

「よしっ、じゃ持ってきますか」

「うん」

 今度こそ三人で分担して教室を出る。

 ところが……、

「誰もいないね、おかしいな」

 いざ職員室の扉を開けたら、そこにはいるはずの先生が一人もいなかった。

「一人もいないって、そんなの初めて……」

「とりあえず机に置いとこーぜ。なんか用事があるのかもしれねえし」

 先生に頼まれた仕事はやっておいた方がいい。

 そう判断して職員室を出た。

 だけどやっぱり何かがおかしい。

「廊下に人がいないってこと、ありえる……? 休憩時間なのに」

 私はぽつりとつぶやいた。

 提出物を運んでるときは確かに周りには人がいたはずだ。

 なのに今は私たちの上靴がキュッと音を立てるだけ。

 教室をのぞこうにも、全部ドアが閉ざされていて中をうかがうことは出来なかった。

「なんか寒気しねえ? 夏なのに肌寒いっていうか」

 加藤くんがぶるぶるっと身震いする。

 その時静かな校舎に響き渡るようにスピーカーが鳴った。

『これよりゲームを開始する。プレイヤーは速やかに教室へ戻るように』

 老人のようなしわがれた声。

 それを聞いてなぜだか心臓がどくっと嫌な音を立てた。

「ゲーム? プレイヤー? なんだよそれ」

「みんなのところに戻ろう。嫌な予感がする」

 三浦くんの呼びかけに私たちは小走りで教室に戻った。

 やっぱり何かがおかしい。

 クラスのみんなも、先生やほかの子たちみたいに消えていたら?

 それにスピーカーの声。あんな声の先生、聞いたことがない。

 学校中の人が消えたのも、全部その人の仕業だったら、私たちはどうなるの?

「おい、誰かいるか!」

 加藤くんが素早く教室のドアを開けた。

 蛍光灯がちかちかと点滅する。

「な、なんだよ。びっくりした」

 顔を出したのは驚いた顔をした千葉くんだった。奥には佐藤さんのほか数人のクラスメイトもいる。

「よかった。クラスのみんなはいなくなってなかったんだね」

 私は幾分かほっとして胸をなでおろす。

 でも三浦くんは顔の表情を変えずに「いや」とさえぎった。

「やっぱりおかしいよ。クラス、こんなに少なくなかっただろ」

 そう言った瞬間、後ろでスパアンッと鋭い音がした。

 振り返ると教室のドアがしっかりと閉まっている。

「加藤~、ドアくらい静かに閉めろよな」

「え? いや、俺今触ってなかったよな……」

 千葉くんの言葉に加藤くんが困惑して自分の手とドアを交互に見つめている。

 そのうち、佐藤さんが青ざめた顔でドアを指さした。

「い、今、ドアが勝手に閉まった……?」

「はあ? んなわけねえだろ。どうせ加藤がふざけてんだって」

「違う。俺はふざけてない!」

 言い合いになりそうなところを三浦くんが割って入ったところで、またスピーカーから音が流れた。

『プレイヤーはそろった。誰恋ゲームの開始を告げる』

 キーンコーンカーンコーンと授業の始まりのチャイムが鳴った。

 またさっきの声。これはいったい誰なの?

 教室中に緊張が走った。

 その時、奥で固まっていた女子の一人がきゃあっと悲鳴を上げる。

「な、なにこれっ」

「どうした!」

 みんなで慌てて駆けつけると一番後ろの机に一枚の紙が置いてあった。


  *
誰恋ゲーム

ルール

その1
プレイヤーは好きな人がいるかどうかを答える。

その2
プレイヤーはその他のプレイヤーの好きな人を当てることができれば勝利となる。

その3
好きな人はその場にいなくても良い。

その4
プレイヤーは好きな人を開示することができる。

その5
このゲーム中、嘘をついても良い。嘘をついたプレイヤーはその嘘を見破られなければ勝利となる。

その6
嘘を見破ったプレイヤーは勝利となる。

その7
プレイヤーは途中で棄権することはできない。

その8
ゲームの開始はプレイヤーが発声した後となる。

その9
敗北したプレイヤーは●×■▲
  *


「なんだこれ、誰恋ゲーム?」

『ルールはその通りだ。誰恋ゲーム、すなわち誰が誰に恋をしているのかを当てるゲーム。私はマスターで進行役を務める。君たちプレイヤーには勝利を目指してもらう』

 千葉くんははあ?と怒ったような声を出す。

「意味わかんねえ。俺たちはプレイヤーだ? 勝手に始めんなよ、俺はやんねえ」

 千葉くんはドアに手をかけて教室を出ようとした。

 だけどどれだけ力を入れてもドアはびくともしない。

「は……?」

「プレイヤーは途中で棄権することは出来ない。千葉、もうゲームは始まってるんだよ」

 三浦くんの冷静な声が響く。

 さっと血の気が引いていくのが分かった。

 あのスピーカーの人は本気なんだ。

 どうやったのかはわからないけど、私たちを閉じ込めてゲームさせようとしてる。

 千葉くんの額からぽたっと汗がしたたり落ちた。


 私たちはいったん円形に座って状況を整理することにした。

 この教室に集まっているのは全部で7人。

 三浦くん、加藤くん、私。

 千葉くんと佐藤さんのカップル。

 そしてさっき悲鳴を上げてたショートカットの相沢みらいちゃんと、お友達でおとなしめの優等生の小林榛名ちゃん。

 意図的に集められたプレイヤー。ドアは開かないみたいだし、こんなのまるでホラー映画で見るようなデスゲームだ。

「ほかのクラスのやつらは? どこに行ったんだ?」

「わかんねえ。トイレでも行ってんのかと思ってたけど……」

 千葉くんはくそっとこぶしを膝に打ち付けた。

「どうしてこんなことに!」

「いったんこのルールを見てみよう。好きな人がいるかどうかって書いてあるけど……」

 三浦くんは紙を読み上げながらみんなを見渡した。

 みんな顔がこわばったまま動かない。

「ま、この質問は愚問か。プレイヤー全員に好きな人がいないと、このゲームは成り立たないからね」

 三浦くんは冷静に次々とルールを読み上げていく。

 全員ってことは三浦くんにも好きな人がいるんだ……。

 こんな状況だけど、少しだけショックな自分がいる。

 って、ちょっと待って。このゲーム、みんな誰かの好きな人を当てなきゃ勝利にはならない。

 ってことは、私が三浦くんを好きなのもバレちゃうってこと⁉

 そう考えたら体中が火照っていくのが分かった。

 恋バナ、ならまだいいのに、よりにもよって三浦くんの目の前で好きな人を言わなきゃいけない⁉

 それってほぼ告白と一緒だよ~!

 熱くなった頬を手で冷やす。

 そんな私をつゆ知らず加藤くんははいっと手を上げた。

「それ聞いてたらさ、必勝法思いついたんだけど」

 みんながばっと前のめりになった。

「必勝法? 何々っ? それ」

 相沢さんは高い声で聞く。

「ようはみんな、好きな人を当てられたらいいんだろ? それなら、みんな嘘をつかなければいい。正直に開示すればすぐ終わるじゃん、こんなの」

 相沢さんは意味ありげに小林さんと顔を見合わせる。

 加藤くんは簡単に言うけど……好きな人を言うのって相当に勇気いるものなんじゃ……。

「そういうことなら俺たちはさっさと抜けさせてもらうぜ」

 千葉くんは安心しきった顔で佐藤さんの顔をのぞく。

「俺は佐藤が好きだし、佐藤は俺が好き。そう言えばいいってことだろ?」

 確かにそうだ。二人はすぐに勝利できそう。

 だけど、佐藤さんは顔をうつむかせたまま何もしゃべらないでいる。

「ど、どうしたんだ? まだ動揺してんのか? すぐ終わるから大丈夫だって……」

「嘘をつかなければいいんだよね? 当てれば勝てるんだよね……?」

 佐藤さんはかすれた声で加藤くんにたずねる。

 彼は意表を突かれたように「お、おう」と答えた。

「なら言う。千葉は私のことが好き。だけど、私は違う。あんたの答えはあってないよ」

 私たちの間に衝撃が走った。

 千葉くんはたまらずガタッと椅子から立ち上がる。

「はあ⁉ 何言ってんだよお前! 本気か⁉」

「本気だよ。嘘は言ってない」

 佐藤さんは今度はきっぱりと言い放った。

 スピーカーからマスターの声が流れる。

『君たちの答案は受理された。勝利者、佐藤。敗北者、千葉』

「いやいやいや、待てよ! そんなのおかしいだろ! 俺たち付き合ってんだぞ⁉」

 千葉くんの叫び声は廊下からの耳をつんざくような悲鳴でかき消された。

 鼓膜を破るような響きに思わず耳をふさぐ。

『勝利者は前方、敗北者は後方のドアから退出しろ。ドアはそれぞれ異なる場所へとつながっている。その先は……まあご想像にお任せしよう』

 その時だ。

 さっきはびくともしなかった後ろのドアが何者かによってすっと少しずつ開けられていった。

 それを見た私はひっと後ろにのけぞる。

 隙間から見えたのは天井まで達するような、大きな目玉だった。