叶依はじっくり悩んだ結果、伸尋とは仲良くすることに決めた。彼のことはまだほとんど分からないけれど、史が彼を認めていたし、叶依に悪影響になるとも思えなかった。いきなり名前で呼ばれたことには驚いたけれど、それは叶依が言ったことでもあるし、単純にイケメンな彼と仲良くなりたかった。
「俺が知ってる限りでは、良い奴やな」
二日目の朝、登校して教科書類を机の中に入れてから伸尋と話をしようと振り返ると、既に彼は史と一緒だった。叶依が伸尋への質問を考えていると、史が笑った。
「そういえば、おまえら──なんか似てるな?」
「……似てる? 何が?」
「え、二人ともクラブで部長やろ?」
「ああ……」
叶依は特に歌が好きなわけではなく、得意なギターを生かせそうなクラブが他になかった。海帆に誘われて入部し、叶依のことを知っていた生徒も多く、当時の部長が引退のときになぜか部長に推薦されてしまった。叶依は幼い頃からギターが得意で、音楽事務所からいくつもスカウトされているけれど、今のところ全て断っている。伸尋も学校のクラブの他に地域のチームにも所属していて、JBLの会長から高く評価されているらしい。
「こいつ勉強できるし、運動もできるんよな。羨ましいわ」
「へぇ……」
叶依が伸尋を見ると、彼は照れ臭そうにしていた。
「そしたら、球技大会とか活躍できるやん」
「まぁな……。去年もバスケで出たし」
けれどその場面を、叶依は見なかった。今年は見られるだろうか、と彼が活躍する姿を想像して、思わず頬が緩んでしまった。
「そんで叶依、一人暮らしやろ?」
「えっ、そうなん?」
叶依には、両親がいない。というより、実の両親に育ててもらった記憶が全くない。物心がついたときには両親の知人だという女性と一緒に暮らし、両親は海外にいると聞いていた。彼女との関係は良好だったけれど、叶依は高校進学を機に家を出ることにした。彼女は高校の寮母をしていたので、そこに入れてもらった。部屋に空きがあったので家賃は要らないと言われたけれど、叶依は出世払いすることを約束している。
「大変ちゃうん? ご飯はどうしてるん?」
「希望したら作ってもらえるけど、私は自分で適当にやってる。どっかギター弾きに行ってたら、帰る時間も分からんし」
その日の気分で場所を変えて、叶依はよく屋外でギターを弾いていた。史がアルバイトをしているコンビニの前だったときは、同級生たちが多く通う予備校の近くだったのもあって、あっという間に噂は広まった。伸尋も何回か前を通ったけれど、人が多くて姿は見えなかったらしい。
「親おらんの辛いよなぁ。俺も親のこと知らんけど、じーちゃんとばーちゃん一緒やから」
「伸尋いつも授業参観とか懇談とかのとき、お婆ちゃん来てくれてたよな」
「うん。……そういえば、誕生日と血液型も一緒やったよな」
本当に偶然かも知れないけれど。あり得ない話ではないけれど。それでもそんな二人が出席番号で前後になって、血液型まで同じは珍しい。
だから叶依と伸尋が仲良くなると、二人の関係を聞きたがる声が増えてしまった。
伸尋が実際にどう思ってるのかはわからないけれど、叶依は彼のことは友人としか認識していない。成績も良いしスポーツもできるので格好良いとは思っているけれど、恋愛感情は今のところない。
もちろん、きょうだいとか従兄妹とかではないし、顔を合わせたのは本当に初めてだ。二人が特に関わらなければ、気にする人は少なかったかもしれない。もちろん、気にしたところで二人の血縁関係は絶対にあり得ないので、関係を否定することも変わらない。
「叶依、疲れてる? せっかく音楽やのに」
音楽は叶依が楽しみにしている授業のはずが、音楽室の席についてから盛大に溜め息をついた。それを見ていた海帆は、近くに伸尋がいないのを確認してから叶依に聞いた。
「最近あんまり喋ってないやん?」
伸尋との関係を噂されだしてから、叶依は彼と話すのを避けるようになった。まだ席替えをしていないので無くなるわけではないし、いつも背中に視線を感じていた。伸尋もきちんと叶依と同じ対応をしてくれているけれど、噂がおさまる気配はなかった。
「いつまで続くんかなぁ」
「……でもさぁ、まだ良いやん、伸尋って格好良いし」
「確かに……」
態度が悪かったり見た目が良くなかったりする生徒との噂だったら、叶依は不登校になったかもしれない。相手が伸尋で良かったけれど──それでも今の状況は、叶依にとって大きなストレスだった。
音楽の授業が終わるとすぐ、叶依と海帆は担当教師の知原百合子に呼ばれた。彼女はコーラス部の顧問をしていて、部長と副部長に話があったらしい。叶依が自己紹介で話した副部長は、海帆のことだ。
知原は話の内容をメンバーに伝えるように頼んだあと、ドアのほうを見て出ていこうとしている伸尋を呼び止めた。
「若崎君、こっち来て」
「……はい?」
叶依は入れ替わりに海帆とその場を離れようとしたけれど、
「叶依ちゃん、ちょっと待って」
知原に引き戻されてしまった。
「あなた達さぁ、双子じゃないよねぇ?」
「へ? 双子? 先生までそんな……」
想定外の言葉に、叶依は思わず盛大に項垂れた。
「だってねぇ、こっちから見てて何か光ってるのよ。そう思えへん?」
知原は笑いながら海帆と史に聞いた。
「名前も似てるしね」
それはもちろん、叶依も認めている。伸尋にいきなり名前で呼ばれたのもあるけれど、叶依もそうするようになったのは苗字が似ていてややこしかったからだ。
「先生、それはないって。なぁ伸尋?」
叶依が伸尋に同意を求めると、伸尋は真剣な顔で叶依を見てから知原に向き直った。
「双子ってさ、同じ顔やろ? 俺は叶依と同じ顔とは思わんで」
「感じは似てるで」
史だった。
「そうそう。感じがねー、なぁんかこう……、一人一人、別々に見てるときは気にならんかったけど、並んだら似てるのよ」
「だから違うって……。私と伸尋は、確かに似てること多いけど、ただのクラスメイト。そんだけ。先生、信じて」
「んー……冷静に考えたらそうよなぁ。親戚やったらどっかで会ってるやろうし……。ごめんごめん」
「俺が知ってる限りでは、良い奴やな」
二日目の朝、登校して教科書類を机の中に入れてから伸尋と話をしようと振り返ると、既に彼は史と一緒だった。叶依が伸尋への質問を考えていると、史が笑った。
「そういえば、おまえら──なんか似てるな?」
「……似てる? 何が?」
「え、二人ともクラブで部長やろ?」
「ああ……」
叶依は特に歌が好きなわけではなく、得意なギターを生かせそうなクラブが他になかった。海帆に誘われて入部し、叶依のことを知っていた生徒も多く、当時の部長が引退のときになぜか部長に推薦されてしまった。叶依は幼い頃からギターが得意で、音楽事務所からいくつもスカウトされているけれど、今のところ全て断っている。伸尋も学校のクラブの他に地域のチームにも所属していて、JBLの会長から高く評価されているらしい。
「こいつ勉強できるし、運動もできるんよな。羨ましいわ」
「へぇ……」
叶依が伸尋を見ると、彼は照れ臭そうにしていた。
「そしたら、球技大会とか活躍できるやん」
「まぁな……。去年もバスケで出たし」
けれどその場面を、叶依は見なかった。今年は見られるだろうか、と彼が活躍する姿を想像して、思わず頬が緩んでしまった。
「そんで叶依、一人暮らしやろ?」
「えっ、そうなん?」
叶依には、両親がいない。というより、実の両親に育ててもらった記憶が全くない。物心がついたときには両親の知人だという女性と一緒に暮らし、両親は海外にいると聞いていた。彼女との関係は良好だったけれど、叶依は高校進学を機に家を出ることにした。彼女は高校の寮母をしていたので、そこに入れてもらった。部屋に空きがあったので家賃は要らないと言われたけれど、叶依は出世払いすることを約束している。
「大変ちゃうん? ご飯はどうしてるん?」
「希望したら作ってもらえるけど、私は自分で適当にやってる。どっかギター弾きに行ってたら、帰る時間も分からんし」
その日の気分で場所を変えて、叶依はよく屋外でギターを弾いていた。史がアルバイトをしているコンビニの前だったときは、同級生たちが多く通う予備校の近くだったのもあって、あっという間に噂は広まった。伸尋も何回か前を通ったけれど、人が多くて姿は見えなかったらしい。
「親おらんの辛いよなぁ。俺も親のこと知らんけど、じーちゃんとばーちゃん一緒やから」
「伸尋いつも授業参観とか懇談とかのとき、お婆ちゃん来てくれてたよな」
「うん。……そういえば、誕生日と血液型も一緒やったよな」
本当に偶然かも知れないけれど。あり得ない話ではないけれど。それでもそんな二人が出席番号で前後になって、血液型まで同じは珍しい。
だから叶依と伸尋が仲良くなると、二人の関係を聞きたがる声が増えてしまった。
伸尋が実際にどう思ってるのかはわからないけれど、叶依は彼のことは友人としか認識していない。成績も良いしスポーツもできるので格好良いとは思っているけれど、恋愛感情は今のところない。
もちろん、きょうだいとか従兄妹とかではないし、顔を合わせたのは本当に初めてだ。二人が特に関わらなければ、気にする人は少なかったかもしれない。もちろん、気にしたところで二人の血縁関係は絶対にあり得ないので、関係を否定することも変わらない。
「叶依、疲れてる? せっかく音楽やのに」
音楽は叶依が楽しみにしている授業のはずが、音楽室の席についてから盛大に溜め息をついた。それを見ていた海帆は、近くに伸尋がいないのを確認してから叶依に聞いた。
「最近あんまり喋ってないやん?」
伸尋との関係を噂されだしてから、叶依は彼と話すのを避けるようになった。まだ席替えをしていないので無くなるわけではないし、いつも背中に視線を感じていた。伸尋もきちんと叶依と同じ対応をしてくれているけれど、噂がおさまる気配はなかった。
「いつまで続くんかなぁ」
「……でもさぁ、まだ良いやん、伸尋って格好良いし」
「確かに……」
態度が悪かったり見た目が良くなかったりする生徒との噂だったら、叶依は不登校になったかもしれない。相手が伸尋で良かったけれど──それでも今の状況は、叶依にとって大きなストレスだった。
音楽の授業が終わるとすぐ、叶依と海帆は担当教師の知原百合子に呼ばれた。彼女はコーラス部の顧問をしていて、部長と副部長に話があったらしい。叶依が自己紹介で話した副部長は、海帆のことだ。
知原は話の内容をメンバーに伝えるように頼んだあと、ドアのほうを見て出ていこうとしている伸尋を呼び止めた。
「若崎君、こっち来て」
「……はい?」
叶依は入れ替わりに海帆とその場を離れようとしたけれど、
「叶依ちゃん、ちょっと待って」
知原に引き戻されてしまった。
「あなた達さぁ、双子じゃないよねぇ?」
「へ? 双子? 先生までそんな……」
想定外の言葉に、叶依は思わず盛大に項垂れた。
「だってねぇ、こっちから見てて何か光ってるのよ。そう思えへん?」
知原は笑いながら海帆と史に聞いた。
「名前も似てるしね」
それはもちろん、叶依も認めている。伸尋にいきなり名前で呼ばれたのもあるけれど、叶依もそうするようになったのは苗字が似ていてややこしかったからだ。
「先生、それはないって。なぁ伸尋?」
叶依が伸尋に同意を求めると、伸尋は真剣な顔で叶依を見てから知原に向き直った。
「双子ってさ、同じ顔やろ? 俺は叶依と同じ顔とは思わんで」
「感じは似てるで」
史だった。
「そうそう。感じがねー、なぁんかこう……、一人一人、別々に見てるときは気にならんかったけど、並んだら似てるのよ」
「だから違うって……。私と伸尋は、確かに似てること多いけど、ただのクラスメイト。そんだけ。先生、信じて」
「んー……冷静に考えたらそうよなぁ。親戚やったらどっかで会ってるやろうし……。ごめんごめん」



