いまから何百億光年もの昔、どこかで一筋の光が生まれた。
宇宙のはじめに作られた惑星〝ルクス・テラ〟は〝希望〟そのものだった。光に満ちたルクス・テラには命が芽吹き、花々は咲き乱れ、全ての生き物が輝いていた。ルミナと呼ばれる住人たちは自然と共鳴し、惑星のエネルギーを守る術を学んでいた。
ルクス・テラは楽園のような場所だった。空はいつも青く、夜は星の輝きで満たされていた。ルミナたちは惑星の中心にある光の泉から力を引き出し、ルクス・テラをより輝いた場所にしていった。
けれどそれは、遠く離れた惑星〝スコティア・ゲー〟に狙われる原因になってしまった。スコティア・ゲーは絶望と破壊を糧とする惑星で、起源については分かっていないけれど、ルクス・テラの光が強すぎて宇宙の均衡を保つために闇が生まれた、としている神話がある。
スコティア・ゲーの使者が暗い霧を纏ってルクス・テラに現れ、ルミナたちに警告した。
「光は闇を呼び、輝きは必ず消える」
「私たちが、希望を失うと? そんなわけがない」
ルミナたちは気にしなかったけれど、やがて最初の攻撃が始まった。空が灰色に染まり、炎が地を焼き、住人の多くが命を落とした。
この危機を乗り越えたのは、指導者エテルナのおかげだった。彼女は泉の力を使い、スコティア・ゲーの軍勢を退けた。けれど勝利の代償は大きく、ルクス・テラは一時的に輝きを失った。エテルナは残されたルミナたちに〝光を守る使命〟を託し、姿を消した。
しばらく経って、ルクス・テラは新たな光を作り出していた。ルミナたちは〝光の守護者〟として団結し、王家が成立した。初代王は光の泉をもとに惑星を再建し、防御のための魔法と技術を発展させた。城壁は光の結晶で強化され、騎士団が結成された。ルクス・テラは再び繁栄を取り戻していった。
スコティア・ゲーからは何度か襲撃を受けたけれど、小規模なものだったので耐えることができた。
「だが──、確実に奴らは強くなっている」
いつルクス・テラの防御が効かなくなるのかと、ルミナたちは常に彼らを恐れていた。
『光は闇を呼び、輝きは必ず消える』
ルミナたちは心の奥にかつての恐怖を抱えていた。ルクス・テラには文化も生まれ、音楽、美術、物語、色とりどりの品が市場を賑わせていたけれど、それがまたスコティア・ゲーに標的にされると怯え、最終的な対決が近づいていることを予感する者もいた。
「そんなに、怖いの?」
小さな子供が老人に聞いた。
「ああ……。わしはもう、ダメかもしれん。あの頃ほど若くない」
「何があったの? みんな、いなくなっちゃうの?」
子供はまっすぐ老人を見つめ、老人は空を見上げた。
「わしが若い頃、戦争があってな。この惑星も、ほとんどの人が死んでしもぉた。生き残ったわしらは、必死にここに光を取り戻した」
老人は子供を見つめた。
「また、戦争が起こるかもしれん。負けるでないぞ。光を忘れてはいかん」
「ひかり?」
「ああ。前を向いて、生きなさい」
老人はそれだけ言うと、どこかへ行ってしまった。子供は首を傾げ、しばらく老人の背中を目で追った。
ルクス・テラに嫌な風が吹いた。
青く澄み渡っていたはずの昼の空が、まるで墨をこぼしたかのように、ゆっくりと灰色に染まり始めていた。光に満ちていたはずの惑星が、不穏な影に覆われようとしていた。
市場では商人も手を止めて、店の外へ出て空を見上げた。いつもと違う風の生暖かさに思わず顔をしかめると、隣で果物を並べていた老婆を見た。彼女の顔には深い皺と共に、不安が刻まれていた。通りを歩く親子連れも笑顔を凍らせ、立ち尽くしていた。花々が咲き乱れる庭園では、その鮮やかな色彩さえ、まるで光を吸い取られたかのように暗くくすんで見えた。
「これは……何なんだ……?」
男の呟きは風に乗り、人々は答えた。
「まさか、あの惑星の──」
「とうとう……その時が、来たのか?」
「こんな風……、ルクス・テラじゃない……っ!」
希望そのものだったはずのルクス・テラが、再び沈黙に飲み込まれようとしていた。誰もが抱えていたスコティア・ゲーからの襲撃が、まさに始まろうとしていた。何度か耐えた小規模なものとも、エテルナの助けで光を取り戻せたときとも違う、全てを溶かしてしまいそうな気持ち悪い風だった。
空は刻一刻と暗さを増していた。夕暮れの穏やかな色合いとは違う、冷たく重い闇が広がっていく。住人たちは避難を始めていたけれど、誰もが立ち止まり、空を見ずにはいられなかった。
「くっそ……こいつは日暮れなんかじゃねぇ……」
一人の男が、震える声で吐き捨てた。
「あいつらの仕業だ……!」
その瞬間、空に奇妙な光が閃いた。
「光? ……っ、伏せろ――!」
ドーン!
誰も経験したことのない衝撃が光の泉の近くを走った。地面は揺れ爆風が吹き、衝撃でいろいろなものが飛んでいた。地面も裂け、前も後ろも分からなかった。商人が店を、親が子を守る余裕すらなかった。自分の身を守るのが精一杯で、耐えられなかった人たちはどこかへ飛ばされてしまった。
──しばらく経つと風は止んだ。焦げた臭いに目を開けると街は炎に焼き尽くされ、輝いていた建物もほとんど崩れ落ちていた。たくさんの人がいたはずが、数えるほどしか残っていなかった。
光の都は、灰と煙に覆われてしまった。
「これから、どうしろと……」
それはルクス・テラ史上最大の絶望だった。スコティア・ゲーの攻撃のせいで街は廃墟同然だった。後に歴史書には『大破壊』と記されることになった。
けれど、ルミナたちは諦めなかった。
「あれは……、水だ!」
エテルナから使命を受けた王家と騎士団はわずかに残された光の泉の力を結集し、惑星の再生に挑んだ。奇跡的に、ルクス・テラはかつてない美しさで復活した。
「エテルナの教え……! 光を守れ……!」
花々が再び咲き、空は輝きを取り戻し、ルミナたちはまた幸せに暮らしていた。王家も繁栄し、代々の王が光の泉を守り続けていた。スコティア・ゲーからの攻撃が繰り返される、と言う者もいたけれど、多くの者は光を信じ、未来を築くために歩みを止めなかった。
それから永い年月のあと、ルクス・テラは復活後の黄金時代を迎えることになる。その間に宇宙の遠くのほうで地球が誕生し、生命が生まれ文明になり、やがて人々が暮らすようになり宇宙のことを調べるけれど──。
ルクス・テラはもちろんスコティア・ゲーのことも、その存在すら知られないまま、また年月は流れた。
宇宙のはじめに作られた惑星〝ルクス・テラ〟は〝希望〟そのものだった。光に満ちたルクス・テラには命が芽吹き、花々は咲き乱れ、全ての生き物が輝いていた。ルミナと呼ばれる住人たちは自然と共鳴し、惑星のエネルギーを守る術を学んでいた。
ルクス・テラは楽園のような場所だった。空はいつも青く、夜は星の輝きで満たされていた。ルミナたちは惑星の中心にある光の泉から力を引き出し、ルクス・テラをより輝いた場所にしていった。
けれどそれは、遠く離れた惑星〝スコティア・ゲー〟に狙われる原因になってしまった。スコティア・ゲーは絶望と破壊を糧とする惑星で、起源については分かっていないけれど、ルクス・テラの光が強すぎて宇宙の均衡を保つために闇が生まれた、としている神話がある。
スコティア・ゲーの使者が暗い霧を纏ってルクス・テラに現れ、ルミナたちに警告した。
「光は闇を呼び、輝きは必ず消える」
「私たちが、希望を失うと? そんなわけがない」
ルミナたちは気にしなかったけれど、やがて最初の攻撃が始まった。空が灰色に染まり、炎が地を焼き、住人の多くが命を落とした。
この危機を乗り越えたのは、指導者エテルナのおかげだった。彼女は泉の力を使い、スコティア・ゲーの軍勢を退けた。けれど勝利の代償は大きく、ルクス・テラは一時的に輝きを失った。エテルナは残されたルミナたちに〝光を守る使命〟を託し、姿を消した。
しばらく経って、ルクス・テラは新たな光を作り出していた。ルミナたちは〝光の守護者〟として団結し、王家が成立した。初代王は光の泉をもとに惑星を再建し、防御のための魔法と技術を発展させた。城壁は光の結晶で強化され、騎士団が結成された。ルクス・テラは再び繁栄を取り戻していった。
スコティア・ゲーからは何度か襲撃を受けたけれど、小規模なものだったので耐えることができた。
「だが──、確実に奴らは強くなっている」
いつルクス・テラの防御が効かなくなるのかと、ルミナたちは常に彼らを恐れていた。
『光は闇を呼び、輝きは必ず消える』
ルミナたちは心の奥にかつての恐怖を抱えていた。ルクス・テラには文化も生まれ、音楽、美術、物語、色とりどりの品が市場を賑わせていたけれど、それがまたスコティア・ゲーに標的にされると怯え、最終的な対決が近づいていることを予感する者もいた。
「そんなに、怖いの?」
小さな子供が老人に聞いた。
「ああ……。わしはもう、ダメかもしれん。あの頃ほど若くない」
「何があったの? みんな、いなくなっちゃうの?」
子供はまっすぐ老人を見つめ、老人は空を見上げた。
「わしが若い頃、戦争があってな。この惑星も、ほとんどの人が死んでしもぉた。生き残ったわしらは、必死にここに光を取り戻した」
老人は子供を見つめた。
「また、戦争が起こるかもしれん。負けるでないぞ。光を忘れてはいかん」
「ひかり?」
「ああ。前を向いて、生きなさい」
老人はそれだけ言うと、どこかへ行ってしまった。子供は首を傾げ、しばらく老人の背中を目で追った。
ルクス・テラに嫌な風が吹いた。
青く澄み渡っていたはずの昼の空が、まるで墨をこぼしたかのように、ゆっくりと灰色に染まり始めていた。光に満ちていたはずの惑星が、不穏な影に覆われようとしていた。
市場では商人も手を止めて、店の外へ出て空を見上げた。いつもと違う風の生暖かさに思わず顔をしかめると、隣で果物を並べていた老婆を見た。彼女の顔には深い皺と共に、不安が刻まれていた。通りを歩く親子連れも笑顔を凍らせ、立ち尽くしていた。花々が咲き乱れる庭園では、その鮮やかな色彩さえ、まるで光を吸い取られたかのように暗くくすんで見えた。
「これは……何なんだ……?」
男の呟きは風に乗り、人々は答えた。
「まさか、あの惑星の──」
「とうとう……その時が、来たのか?」
「こんな風……、ルクス・テラじゃない……っ!」
希望そのものだったはずのルクス・テラが、再び沈黙に飲み込まれようとしていた。誰もが抱えていたスコティア・ゲーからの襲撃が、まさに始まろうとしていた。何度か耐えた小規模なものとも、エテルナの助けで光を取り戻せたときとも違う、全てを溶かしてしまいそうな気持ち悪い風だった。
空は刻一刻と暗さを増していた。夕暮れの穏やかな色合いとは違う、冷たく重い闇が広がっていく。住人たちは避難を始めていたけれど、誰もが立ち止まり、空を見ずにはいられなかった。
「くっそ……こいつは日暮れなんかじゃねぇ……」
一人の男が、震える声で吐き捨てた。
「あいつらの仕業だ……!」
その瞬間、空に奇妙な光が閃いた。
「光? ……っ、伏せろ――!」
ドーン!
誰も経験したことのない衝撃が光の泉の近くを走った。地面は揺れ爆風が吹き、衝撃でいろいろなものが飛んでいた。地面も裂け、前も後ろも分からなかった。商人が店を、親が子を守る余裕すらなかった。自分の身を守るのが精一杯で、耐えられなかった人たちはどこかへ飛ばされてしまった。
──しばらく経つと風は止んだ。焦げた臭いに目を開けると街は炎に焼き尽くされ、輝いていた建物もほとんど崩れ落ちていた。たくさんの人がいたはずが、数えるほどしか残っていなかった。
光の都は、灰と煙に覆われてしまった。
「これから、どうしろと……」
それはルクス・テラ史上最大の絶望だった。スコティア・ゲーの攻撃のせいで街は廃墟同然だった。後に歴史書には『大破壊』と記されることになった。
けれど、ルミナたちは諦めなかった。
「あれは……、水だ!」
エテルナから使命を受けた王家と騎士団はわずかに残された光の泉の力を結集し、惑星の再生に挑んだ。奇跡的に、ルクス・テラはかつてない美しさで復活した。
「エテルナの教え……! 光を守れ……!」
花々が再び咲き、空は輝きを取り戻し、ルミナたちはまた幸せに暮らしていた。王家も繁栄し、代々の王が光の泉を守り続けていた。スコティア・ゲーからの攻撃が繰り返される、と言う者もいたけれど、多くの者は光を信じ、未来を築くために歩みを止めなかった。
それから永い年月のあと、ルクス・テラは復活後の黄金時代を迎えることになる。その間に宇宙の遠くのほうで地球が誕生し、生命が生まれ文明になり、やがて人々が暮らすようになり宇宙のことを調べるけれど──。
ルクス・テラはもちろんスコティア・ゲーのことも、その存在すら知られないまま、また年月は流れた。



