京介くんは今日も可愛い〜恋のライバルはまさかの俺!?〜



「お願い京介! 那月くんから好きな女の子のタイプ聞き出してほしいの!」

「…………は?」


日曜日の午後。

ベッドで漫画を読んでいたら、幼なじみの流花が部屋に飛び込んできた。

顔の前で両手を合わせ、必死な顔でこちらに迫ってくる。


「入るときはノックしろって、いつも――───」

「4組の白鳥さんがね、那月くんに告白したらしいの!!」

「待て待て、話が急すぎる!」

「だって白鳥さんだよ!?うちの高校で一番美人って噂の!」


俺の制止など聞く気もないらしく、流花はそのまま続ける。


「それなのに……那月くん、あっさり断ったんだって!!」

「へ、へぇ……」


思わず間の抜けた相づちが溢れた。

急すぎて驚きはしたけど正直、“だろうな”と思ったから。


白鳥さんといえば、男子の半分が振り向くレベルの美人で、告白された回数は二桁いってるとか、いないとか。

そんな相手でも断るなんて、那月らしいといえば那月らしい。


身長が高くてルックスもピカイチなバスケ部のエース。

放っておいても勝手にモテるいけ好かない野郎だけど、俺の親友だったりもする。


あいつ、告られるたび“今はそういうの考えてない”しか言わないんだよなぁ。

相手が誰でも関係なし。校内一美人だろうと容赦無くスルーするほど恋愛に興味がない。


「白鳥さんですら無理なら、どんな子がいいの!?ってなるじゃん!」

「いや、知らねーよ……」


少し引き気味に答えると、流花は急にしゅんとした。


「のんびりしてたら、他の子に先越されちゃうかも………」


不安そうな目でこちらを見る。


「お願い京介!こんなこと、京介にしか頼めないの」


そう言って、俺の手をぎゅっと握った。


…………あーあ、最悪だ。

さっきまでビービー騒いでたくせに、急に泣きそうな顔すんな。

何度も何度も……“好きな子”から、他の男の話を聞かされるこっちの身にもなってくれよ。


俺を都合のいい存在としか見ていない無神経なところが嫌いだ。

それでも、俺を一番に頼ってくれるのが嬉しいと思ってしまう自分がいる。

16歳にもなって叶いもしない初恋を追い続けてるなんて………。

ほんと、どうしようもないな。

心の中でツッコミを入れてから、俺は肩をすくめた。


「……わかったよ。聞けばいいんだろ」


短く答えると、流花の表情がパッと明るくなった。





「好きな女のタイプ………?」


翌日の昼休み。
俺はさっそく例の質問を切り出した。


「急にどうしたんだよ」


パンをかじっていた那月がもぐっと動きを止めてこちらを見る。


「その……白鳥さんレベルを振る男はどんな人が好きなのか気になって、さ」

「へー」


他人事のような薄い反応。

那月がこの手の話に無関心なのは今さら説明するまでもない。

お茶を一口飲んでから「そうだなぁ」と、空を仰ぎながら答えた。


「京介みたいな子!」

「……は?」


語尾にハートでも付いてんのかってくらい、妙に明るい声でおかしなことを言ってくる。


「京介ってその辺の女子より断然可愛いじゃん。背もちっこいし、結構アリじゃね?」


こいつ、俺のコンプレックスを堂々といじりやがって。

ニヤニヤと楽しそうな顔で距離を詰めてくるから、流石にキレそう。


「おまえ……いい加減にしろよ」

「冗談だって!そんな怖い顔すんなよ〜」


本気で睨んだのに那月はケラケラと笑っていた。

……ったく、こんな適当野郎に好きなタイプとかあんのかよ。

内心呆れてはいたが、仕方なく話を戻す。


「そんで、まじのやつはあんの?」

「えー、まじのやつかぁ……」


間延びした声を出しながら首を傾げる那月。

さっきまでの適当さを上書きするように、少しだけ考える素振りを見せた。


「クールだけど照れ屋な黒髪ロングの清楚系かな〜」


黒髪清楚のクーデレ………?

心の奥で復唱してしまった。

どっかの漫画に登場しそうな2次元設定に思わずツッコミたくなる。


どうせ適当に答えたんだろうと思いながら、密かにほっとしていた。


………口うるさい流花とは真逆じゃんか。


クール要素は皆無だし、清楚な姿も照れてるところも全く見たことがない。


「なるほどな〜」


俺は適当に相づちを打つ。

那月もそれ以上広げる気はないらしく、すぐに別の話題に移っていった。






その日の夜。

那月に聞いた話をメッセージで流花に送った。

すぐに既読がついたかと思えば返ってきたのは短い一文。


『ありがとう!』


……おいおい、それだけかよ。

相変わらずこっちの気持ちなんて1ミリも考えてくれないらしい。


スマホを握りしめたまま、ベッドに倒れ込む。

俺が流花を好きなんて……口に出さなきゃ一生伝わらないんだろうな。

これからも変わらない関係が続くんだと思う。


───なんて思っていた矢先。


俺の恋は、とんでもない方向に動き出すことになる。





数日後の放課後。

校門を抜けて家に帰る途中。突然鳴り響いた着信に足を止めた。


『京介ーーー!助けてーーー!」


キーン、と流花の声が耳に響く。

瞬時に“またか”と察してしまった。


「……なに?」

『バイト先のスタッフが急に辞めちゃって人手が足りないの!お願い、手伝って!』

「お前、バイトなんかしてたっけ?」

『最近始めたの! 店長がすっごく困ってて、誰か代わりの人いないかって半泣き状態なのー!』


電話越しでも必死さが伝わってきた。

助けてやりたい気持ち半分と面倒くさい気持ちが半分。

迷う俺に流花は容赦無く追い討ちをかけてくる。


『お願い!京介しか頼れる人いないの!』


こいつ……絶対わかってて言ってるだろ。

流花の“お願い”と“京介しかいない”は、もはや呪文だ。


「……わかった。今度なんか奢れよ」

『ありがとう!持つべきものは京介様だよー!!』


今日も今日とて、俺は便利屋か……。


「で、どこ向かえばいい?」

『駅前にあるメイドカフェ・ルミエールに来て!』


そう言うと、電話は一方的に切れた。

スマホを耳に押し当てたまま、流花の言葉をなぞるように呟く。


「メイドカフェ………?」


胸の奥が嫌な方向にざわつくのを感じた。

気のせい……だよな。

自分に言い聞かせながら、俺は駅前へ向かって走り出した。







「手伝うとは言ったけど………なんだよこれ!?」


鏡に映った自分の姿を見て、俺は言葉を失った。

フリフリのメイド服。キラキラのメイク。胸元まで伸びた黒髪。

一言で表すなら、絶望。


「いや〜、まさかここまで“女装”が似合うなんて、さすが京介だね!」

「褒められても嬉しくねーよ!」


店に着いたかと思えば流花に腕を掴まれ、抵抗する暇もなく更衣室に放り込まれた。

着替えやらメイクやらのフルコースをお見舞いされ、気づけば女装メイド爆誕………。


「なんで俺がこんな目に……」

「だって店長が“可愛い子連れてきて”って言うんだもん」

「俺は男だぞ!?」

「京介はその辺の女子より断然可愛いし、店長も“ビジュが良ければ性別なんて関係ない”って言ってたよ!」


グッと楽しそうに親指を立てる流花。

好きな人に可愛いと言われ、女装姿を見られるとか……地獄でしかない。

どんだけ男として見られてないんだよ。

力なく肩を落とした拍子にウィッグの黒髪が頬に触れた。


…………黒髪ロング。

どっかで聞き覚えのあるような、ないような。

まぁ、そんなこと今はどうでもいいか。

ここまできたら腹を括るしかあるまい。

流花のためだ。頑張れ、俺!

無理矢理自分を奮い立たせてホールに出た。




「おかえりなさいませ、ご主人様!」


自分史上、1番気持ちの込もっていない声が口から飛び出した。

言った瞬間にぞわっと鳥肌が立つ。

なぜ俺は野郎共にハートを飛ばしているんだろう……。


慣れた様子で注文をする客たちは、俺が男だとは夢にも思っていない様子。

バレても困るが、疑われないのも複雑すぎる。

ちらりと流花を見ると、案の定にやけ面で笑っていた。


あいつ……完全に楽しんでるだろ。

冷静になったら負けだと言い聞かせて笑顔を貼り付ける。

幸い、来店客のほとんどが常連だったこともあり、大きなトラブルもなく時間が過ぎた。

このままラストまで乗り切ればミッションクリアだ………!

と、思ったそのとき。

カランカランと入り口のドアが鳴った。


「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」


メイドさんたちの声が店内に響く。

俺も笑顔で入り口を見て─────一瞬で血の気が引いた。

は?嘘だろ……?

なんで、なんで……こんなところに“那月”がいるんだよ!?

入り口に立っていたのは、ジャージ姿の那月と、バスケ部の後輩らしき男子が2人。


まずい、まずいまずいまずい!!

こんな格好してるのがバレたらしぬ!一生の恥!

そんな俺の人生終了カウントダウンをよそに、那月に気づいた流花がぱぁっと瞳を輝かせた。


「えっ、那月くん!?」


嬉しそうに駆け寄っていく。

「水守さんじゃん。こんなとこで何してんの?」

「バイトだよ! 那月くんこそどうしたの?」

「俺はこいつらに無理やり連れてこられた。行ってみたかったんだと」


はぁ、と深くため息を吐く那月。

「そっかぁ。でも来てくれて嬉しいな! 席まで案内するね」


流花がくるりと振り返り、こっちに向かって歩いてきた。


「げっ!?」


やばい、こっちに来る!

声にならない悲鳴を飲み込んだ瞬間、あっさり那月と目が合った。


「あれ?」


その一言に心臓が跳ね上がる。

お、終わった───。


「君、どっかで会ったことない?」

「へ?」


もしかして俺だってことに気づいてない……?

たしかに友達が女装してメイドをやってる………なんて、普通に考えたらありえない展開だ。

メイクもしてるしウィッグだって被ってる。

何事もなく終えられれば、ワンチャン救いがあるのでは!?


「気安く話しかけなでください!」


一刻も早くこの場から離れたくて、全力で感じの悪い女を演じた。必死すぎて顔が熱を帯びるほど。


「……あぁ、すみません」


那月は一瞬だけ目を丸くしてから、素直に引き下がる。

若干の罪悪感はあるものの、俺の平穏な生活を守るため。

許せ、那月!

心の中で手を合わせていたら、隣にいた後輩が余計な言葉を飛ばしてきた。


「那月先輩〜、来て早々女の子口説かないでくださいよ〜」

「はぁ!?別にそんなつもりじゃ……!」

「そんなこと言って〜、顔真っ赤ですよ〜」

「っ………!?」


那月が慌てて顔を隠す。

こいつ……なんでこんな焦ってんだ?


「俺はただ、知り合いに似て……可愛いなって思っただけで………」


そこで言葉を切ったが、今度は耳まで赤くなっていく。

…………おい。

今、とんでもないこと言わなかったか?


「えぇ!?那月先輩が女の子褒めるなんて初じゃないっすか!?」

「女子に興味ないことで有名なあの那月先輩が!?」

「う、うるせーよ!」


後輩2人に煽られて那月は露骨に視線を泳がせる。

噛みつくくせに、肝心なところは否定はしない。

そのとき、脳裏にとある記憶が過った。


───『クールだけど照れ屋な、黒髪ロングの清楚系かな〜』


あれ、今の俺って……。

自身のことを振り返るように思い出す。

黒髪ロング。クールぶった態度。焦りまくった顔が照れてるように見えなくもない。

つまり……那月の好みドンピシャのフルコンボじゃねーか!?


助けを求めて流花に視線を送ったら、むすっと不機嫌そうにそっぽを向かれた。

ガーン!

流花のために女装までしたのに、なんで俺が悪いみたいな流れになってんだ!?


こんな展開、始まる前に中止してくれよーーー!