「ご、ごめんなさい。すぐに準備、シマス」
「……?なんだか今日のあなた、いつにも増して変よ……?」
「だ、大丈夫。ごめんお母さん。ちょっと寝ぼけてただけ、だから」
余程普段見慣れている娘の姿からは感じえない違和感があったのだろう。
母は怪訝に眉をひそめながら、疑いの眼差しでじっとあたしを睨むように見つめてきた。
「とにかく準備するから!えーと、ユウリくん?にはもう少しだけ待っててもらうように伝えて!!」
「……。って、ちょっと!わかったから押さないでちょうだい!」
あたしはようやくベッドから起き上がり、訝しむ母親の体を無理やり部屋の外に押し出した。
なんだか、あたしの最後の発言にまで疑心を募らせていたようだけど、何か間違ったのだろうか。
とまあ一旦それはさておき、だ。
(ここはあたし、佐々宮菜花の自室で――)
先ほど新たにスッと落ちてきた認識を確かめるように、ひとりになったその部屋をゆっくりと見回す。
(制服は、ここに掛けてある。中学のカバンは、これ)
自分でも驚くほどに、勝手に脳と体がこの部屋の構造を熟知していた。
何が何だかわからないのに、“今のあたし”がわかっていて然るべきことだけは、自然と体が憶えているこの感じ。
それは殊更妙な感覚ではあったが、不思議と嫌な気分ではなかった。
(でもそのユウリって子の顔が、パッと出てこないのよね、まだ)
寝坊した上、部屋でもたもたしているあたしを家の外で待つという“ユウリ”くん。
話の流れからして、幼なじみか何かなんじゃないかって気はしてるけど、一体誰なのだろうか。
(いやはや、もしかして彼氏!?25歳のあたしですらご無沙汰続きだった、ボーイフレンド氏ですか!?)
ほら、昨今の中学生ってイロイロと発育が早いというし、そう考えを巡らせたものの。
(…………いや、違うな。そんな気がする)
早々に自己完結。
そんな脳内茶番を繰り広げながらも、登校の準備は滞りなく進んでいき――
母が用意してくれていた朝食を手早く済ませたあたしは、20分を過ぎた頃にようやく外に出た。
化粧をせずとも外出ができるというのは実に素晴らしい。
学生万歳だ。
なんて、さながら中学生らしからぬ感想を抱きつつスマホの画面に映るその時刻を見やり、
(8時23分出ってどう考えてももうアウトの時間なんじゃ……)
確実に自業自得とはわかっていながら、ひとり冷静なツッコミを入れてしまう。
あたしの脳内に勝手に保存されている認識によると、東金中学校の朝の登校は8時半までに正門をくぐる必要があって。
この家から中学までは、歩いて15分、走って10分弱らしい。
ほぼ間違いなく自分も遅刻確定なのに律儀にねぼすけな幼なじみ?の女の子を待っていてくれる中学男児とは。なんてよく出来た、将来有望な男の子なのだろうか。
自分が陥っている状況をすっかり忘れて、あたしはそんな素敵な幼なじみ(仮)クンのご尊顔をいざ拝もうと、軽快な足取りで家の門扉に駆け寄った。
