「おはよう、ございます」
ひとまず上体を起こして、やや控えめに母を見る。
「何よ、敬語なんか使っちゃって。一応、寝坊の罪悪感くらいはあるみたいね」
「寝坊……?」
何やら都合よく勘違いしてくれているところ申し訳ないが、今のあたしにはその言葉の意味すらよくわからない。
(いや、寝坊の意味は知ってるけど……)
「そうよ!寝坊!もう8時過ぎてます!!!」
「はち、じ……」
母の言葉をゆっくりと反芻して、思い至る。
「……8時!!遅刻!!会社!!!」
「はぁ?何を寝ぼけたこと言ってるの!学校、でしょ!!!」
「へ?学校……?」
思いがけないその語句に、あたしは再び母を見返した。
(学校って。学校ってあの学校?)
「そう!学校!中学卒業まで1か月切ってるからって、あんまり調子に乗ってたら知らないからね!!」
「え、中学?卒業……?」
母親の口から次々飛び出て来る衝撃のワードの数々に、あたしの理解は全く追い付かない。
いやいやいや。
あたしは、それなりの家庭でそれなりの学生生活を送って、それなりの会社でそれなりの社畜人生を謳歌していた、どこにでもいる25歳一人暮らしの一般的な社会人で――。
そこまですらすらと脳内の情報が紡がれた瞬間、またしてもパッと思考が整理される。
(――違う。“今のあたし”は)
――東金中学校3年2組在籍、佐々宮菜花、15歳だ。
