……。
…………。
(ん?)
(ナノカ……?と、ユウリくん?……って誰?)
どこかで聞いたような名前な気がするものの、いまだ正常に機能していないあたしの(無)脳ではその解が出てこないのだ。
かわらず視界一面に広がる洋室の白い天井を眺めながら、それでもあたしは実際に動かすことなく頭を捻る。
ドン、ドン、ドン、ドン――
すると、どこからかまるで地獄から沸き立つ地響きのような……
いや、さすがにそれは冗談であるが、怒りの感情を全乗せした重量感ある足取りで、階段を上がって来る“誰か”の足音が近付いて来た。
(もしかしなくても、きっとこの主の向かう先は恐らく――)
――バンッ!!!
(ほら、来た)
壊れるんじゃないかってくらいの豪快な音を立てて、その部屋のドアがその人によって強引に開かれた。
「菜花!あんたお母さんの話聞いてるの!?夕璃くんもう待ってるって言って……ってあんた、まだ寝て……!!!」
自らを“お母さん”と名乗るその女性は、ベッドの布団の中でお行儀よく横になったままのあたしを見下ろして、眉間に壮大なシワを寄せる。
「……?」
「何ボーっとしてるの!起きなさい!!もう8時よ!?」
反応する間も与えられぬうちに、あたしを覆っていた温かな掛布団が彼女によって引き剥がされた。
(……あ、“お母さん”か。確かに、この人は“お母さん”だ)
その瞬間、ふいにあたしの曇っていた思考が晴れていき、今までぼんやりとしていた不可解な感情のモヤが確信的な何かへと変わる。
よくわからないけど、この人が“今の世界の”あたしの母親であることは間違いないらしい。
(今の世界……?)
ストン、と落ちて来たその“当たり前の”認識に、冷静になって疑問符が浮かぶ。
(そうだよ。あたし、確か仕事帰りに突っ込んできたトラックの事故に巻き込まれて死んで――)
――それで。どうなったのだろうか。
(わかんないな)
ただ唯一わかっていることは、今あたしの目の前で般若の形相をして、烈火でも噴きそうなご様子で仁王立ちしているこの女性はあたしの母親で、その母親は向かいでベッドに横たわるあたしに対して壮絶な怒りの矛先を向けているということだ。
(とにかく、起きよう)
