ふらないで。


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「好きでーすっ、付き合ってくださぁーい!」
「…は?」
 茶髪のツインテールの、いかにも陽キャな女の子が黒川さんの前に立って握手を差し出しています。
 高校の、屋上…でしょうか。
 真剣…というより、遊び?ノリ、のような感じで。
 なぜか、どうしようもなく、いらいらしました。
 黒い泡が、ぼこぼこと心を蝕んでいくような、とても恐ろしい感情に出会ってしまいました。
「無理だけど。ノリだろ?そんなお遊びはとっととやめろよ。本当に気持ち悪い」
 一刀両断した黒川さん。さすがです。
 心のどこかで、またまた惚れ直します。
「うげえ〜」
 女の子は薄ら笑いを浮かべたまま、嫌そうな声を出しました。
 でも…全然悲しくなさそうです。というより、なんだか楽しそう。
 どうしようもなく嫌になりました。なんなの、この女の子は。ノリで告白しているの?好きでもない人に?
 私の方が、本気で…本気で好きなのに。
 すると、屋上の扉から、女の子の友達でしょうか。きゃっきゃとした様子で飛び出してきました。
「うおーやっぱ初彼氏無理だった?」
「マジで厳しすぎだろ!黒川、もーちょい優しくなったらいいのにねー」
「だめだったー。えー、でも彼氏かっこいい人がいいじゃん!黒川以外イケメンおる?いないよー!誰と付き合えばいいの!?」
 そう言ってケラケラ笑う女の子たち。
 ひとりぽつりと取り残された黒川さんが、どこか起こったような呆れた様子で帰って行きます。
 …なんなんですか?
 あなたたちは、あなたたちは、好きでもない人にノリで、彼氏が欲しいだけで告白して、楽しいの?
 どこが、楽しいの?

 はっと、目を覚ましました。
 自分の部屋です。
 宿題をしていて…そのまま寝落ちしてしまったのでしょう。ノートの上に突っ伏しています。
 なんでしょうか、内容はあまり覚えていないのですが、とても嫌な夢を見た気がします。
 悪夢ではなく…嫌な夢?後味の悪い夢なんでしょうか。あやふやで、あまり分かりません。
 でも確か、黒川さんが出てきたような…。最近やたらと夢に黒川さんが出てくるのですが、今日の夢以外はいい夢でした。
 夢は、自分の失敗した出来事や失敗しそうな出来事をシミュレーションするためのものとどこかで読んだことがありますが、私は何を失敗しそうになっていたのでしょうか。
「つむぎ、ご飯できたよー」
「はーい」
 うちはお父さんが単身赴任なので、お母さんが全ての家事を担当しています。
 私がいわゆる真面目っ子というものらしいので、そんなに苦労はしていないそうなのですが…。少し心配ですね。
 部屋を出て、リビングに行きます。
 美味しそうなハンバーグです。
 じゅわ〜と音を立て、口の中で肉汁が溢れ出します。
 黒川さんは、今頃何をしているのでしょうか。どんな家族と、どんなご飯を食べているのでしょうか。
 気持ち悪いですが、ずっと黒川さんのことを考えてしまいます。考えるたび、胸がきゅうっとします。