ミラー☆みらくる!

 一歩一歩、踏みしめるとアスファルトの硬い感触が、靴の底に伝わってくる。
 夢里(ゆめさと)中学校は坂をのぼった上に学校がある。
 どのくらいの坂って、人によっては自転車でのぼることが出来ない人がいるんだとか。
 だからこの登校中でも、ぜいぜい言いながらのぼっている生徒もいる。

 そんな中、わたしは足取りしっかりと力強く歩いていく。
 莉菜は陸上部ということもあって、体力には自信あり!
 多少息があがっても、へばることはないんだ。
 
 どうやら今のわたしは、莉菜の身体そのものみたい。
 これって、莉菜の身体にわたしが入り込んだ状態なのかな?
 だとしたらやっぱり莉菜自身は【鏡の部屋】にいるの?
 なんでこの現象が起きているのかわからないけど、莉菜だってきっとビックリだよね。
 なんとか莉菜とコンタクトをとりたいけど、そうしたらわたしはまた【鏡の部屋】に戻ることになるのかな。
 
 ……それって、ちょっとさみしい。
 今までは【鏡の部屋】にいても特になにも感じたりしなかったんだけど、外に出たらこんなに刺激的で楽しいんだもん。
 もうちょっとだけ。もうちょっとだけ莉菜としてこの感覚を味わいたい。
 だから、ごめんね、莉菜。
 今は、もう少しだけ。莉菜として存在させてね。

 六月下旬とはいえ、街路樹の隙間から零れる陽射しは思ったより強烈だった。
 【鏡の部屋】からみていた時は、ただの映像として見ていたから、陽射しがこんなに眩しいものだとも、肌にひりつく感覚があるとも思わなかったんだもん。
 歩いているうちに少しずつ汗ばむ肌も、坂道をのぼるうちにあがっていく息も。
 なにもかもこんな感覚は、はじめての体験!
 坂をのぼりきって見上げれば、目が覚めるような青い空がどこまでも広がっている。
 こんなに視界が変わるんだ。空の色ってこんなに青いんだ。

「すごーーーーいっ‼︎」
 思わず両手を広げて空を抱きしめたくなるくらい感動していたら、頭にバコンッ! と衝撃がはしった。
 何が起きたのかと振り返ったら、そこには莉菜の親友の道場(みちば)芹香(せりか)ちゃんが呆れ顔をして立っていた。

「芹、香ちゃん?」
 頭をさすりながら声をかけると、芹香ちゃん大きくため息をついた。

「朝っぱらから正門近くでなに騒いでるのよ、恥ずかしい」
 芹香ちゃんは莉菜と同じ陸上部に所属していて、ハードル走をやっている。
 百六十センチを超える身長の芹香ちゃんがハードルを飛び越える様は、すごくカッコいいんだ。
 それに、その時になびくショートカットの髪が、きれいなの。
 鏡越しに見ていて思わず見とれちゃったくらい。
 その芹香ちゃんが今、目の前にいる。