「え、うちの学校に徳川埋蔵金っ……!?」
誰もいない空き教室で、中学一年生の私――上條萌音の声が大きく響いた。
「しー、声がでかいって萌音」
辺りをしきりに見渡しているのは、中学二年生の上條花音。私のお姉ちゃんだ。
「そうよ、この情報はトップシークレットなんだから」
極秘情報を教えてくれたのは、中学三年生の上條彩音。こちらも私のお姉ちゃん。
私たちは年子の三姉妹で、現在宮迷学園に在籍している。
おっちょこちょいの私とは違って、ふたりはとっても頼りになるお姉ちゃん。
ボーイッシュな花音ちゃんは、喋り方もハキハキしていてカッコよく、彩音お姉ちゃん(彩ねえ)は、上品で頭の回転も早いしっかり者。
「徳川埋蔵金って、江戸時代の将軍だった徳川家が、ものすごい財宝をどこかに隠したって言われてる伝説だよね……?」
「そーそ。260年間誰にも見つかってない世紀のお宝。それを今の価値にすると200兆円にもなるってうわさだぜ」
「え、ま、待って。兆って億の次だよね? えっと、200兆円って……いくら?」
「200兆円は1億円が200万個あるってことよ」
「ひぃー」
金額が大きすぎて、ちょっと引いちゃった。
彩ねえの説明によると、その徳川埋蔵金がなんとこの宮迷学園の地下に隠されているのだという。
「たしかにこの学校ってちょっと不思議だよな。なぜか通学するには不便な丘の上にあるし、校舎の前に置かれてる銅像も動くっていううわさもあったりするじゃん?」
「そ、そうなの?」
「私は謎が多いほうが好きよ。張り巡らされた伏線に、誰にも解けない暗号。ミステリーこそ人生のロマンだもの」
ミステリー小説が好きな彩ねえは、天井を見上げながらうっとりしていた。
「うちはあんまミステリーには興味ないけど、徳川埋蔵金はたしかにロマンだよなー! もしもうちらが見つけちゃったらどうする? うちは広い庭があるでっかい家を建てて、セントバーナード飼いたい!」
「うーん、見つけたらそうねぇ。私はやっぱり寄付かしら? たくさんお金があっても使いきれないし、そういうのは人のために使うべきだわ。萌音はどう?」
「え、わ、私はどうしようっ?」
クラスのみんなとお菓子パーティーもしたいし、自分だけの秘密基地を作るのもいいなぁ。あ、ボンボンドロップシールも全種類ほしい!
なんて、わくわくしながら夢を膨らませている私たちだけど、実は徳川埋蔵金よりもさらに知られてはいけないSS級のひみつを抱えている。それは――。
ブーブーブーブー!
「わわっ……」
机の上に置いてあるパンダのケース入りスマホがブルブルと震えた。
これは三人で共有しているスマホで、画面には【BOSS】という文字が表示されている。
『やっほ~♪︎ 萌音、花音、彩音、今日の調子はどうだい?』
ビデオ通話に繋ぐと、スマホの向こう側に陽気なパンダが映った。
本物のパンダなのか、被り物なのか。性別も年齢も不明で、声帯模写(つまり声マネ)が得意らしく、この声も本物かどうかすらわからない。
「こちらはいつもと変わりありません。ボスはいかがですか?」
『こっちも大丈夫だよ、彩音』
「ところでボス! この前保健室で見つかった謎の薬事件。色々と苦労してやっとわかった薬が、実はただのラムネだったとか、そんなのあり?」
『あれは、体育をずる休みするために持病持ちだとウソをついていた生徒が、ラムネを薬に見立てて飲んでたみたいだね。本人もバレて逆に安心したって言ってたし、ウソから解放してあげたと思えばいいじゃない、花音』
花音ちゃんと彩ねえが他愛ないことを話している横で、私はドキドキしていた。
ボスが私たちに電話をかけてくるのはいつだって依頼(ミッション)を伝えてくる時だって決まっている。
「あの、ボス……。それで、今日の依頼は?」
おそるおそる尋ねると、ボスはパチンッと指を鳴らした。
『では、三姉妹に本日のミッションを告げる。昨日から行方不明になっている一年A組の佐々木アンナを探し出せ』
「「「ゆ、行方不明っ?」」」
『君たちならきっと白黒つけられるさ。じゃあ、健闘を祈ってるよ☆』
ボスと繋がっていた画面が、ぷちっと切れた。
実は私たち三姉妹には、ふたつの顔がある。
表では、どこにでもいるフツーの中学生。
だけど裏では、特別なギフト(能力)を持った探偵なんだ!
私が持っているギフトは、どんな〝ウソ〟でも見抜くことができる『ハートキャッチ』。
花音ちゃんは、見たものをそのまま脳内にストックして再現できる『パーフェクトメモリー』。
彩ねえは、どんなに分厚い本や資料も一瞬で読むことができる『超速リーディング』。
この力は両親から受け継いだ大切なプレゼントだけど、お父さんとお母さんはもういない。
仕事で海外を飛び回っていたふたりは、一年前に起きた飛行機事故で命を落とした。
現実を受け止められない私たちに残されたのは、お互いを支え合う絆と、このギフトだけ。
この先どうやって生きていけばいいのかわからなかった私たちの前に突然やってきたのがボスだった。
――『君たちの力をわたしに貸してほしい』
そうして私たちは、ボスから依頼されたことに白黒つける探偵になった。
もちろんギフトのことも含めて、探偵をやっていることは私たち三姉妹だけのひみつ。
ボスが何者なのかは謎に包まれているけれど、やりがいのある探偵は、私たちにとって生きがいにもなっていた。
*
翌日、私たちはさっそくアンナちゃんについて調査を始めた。
昨日から学校を欠席しているアンナちゃんは、A組の学級委員長を引き受けているほど真面目で責任感が強い性格。
私も入学したての時に校舎で迷子になりかけているところを助けてもらったことがあった。
「アンナが無断で学校を休むなんて、どう考えてもありえない」
まず話を聞いたのは、アンナちゃんの友だち・河合さんだ。
アンナちゃんには友だちが四人いて、とくに河合さんとは小学校から一緒で一番仲良しだという。
「アンナは小学校の六年間、一度も欠席をしたことがないほど頑張り屋さんなの。だから、昨日だけじゃなく今日も来てないなんてフツーじゃない。もしも事件や事故に巻き込まれていたら、どうしよう……」
河合さんの顔が、みるみる青くなっていく。彼女だけじゃなく、他の友だちもアンナちゃんにいくら連絡をしても返信がないそうだ。
「小学校からの仲ってことは、家も知ってたりする?」
「知ってるけど、アンナの家はちょっと複雑っていうか、今は家に誰もいないよ」
「いないって、どういうこと?」
「アンナの親は離婚していてお母さんとふたり暮らしなんだけど、最近はあんまり家にいないみたいで……。アンナいわく、仕事が忙しいって言ってるけど、夜もいないなんてそんなの普通はありえないでしょ?」
「でも、夜勤とかの可能性も……」
「アンナのお母さんの仕事はお弁当屋さんだから夜勤なんてないよ。お母さんが帰ってこないからアンナは最近ずっと家でひとりだったの。事故や事件じゃないとしたら、アンナはお母さんのことで悩んでいたのかも……」
河合さんからの証言①
・一度も小学校を休まなかった
・アンナちゃんの家は母子家庭
・最近、お母さんは家にいなかった
続いて、アンナちゃんと仲がよかった他の友だち二人にも話を聞いた。
学校関係の悩みはなかったみたいだけど、河合さんには内緒でひそかにあることを計画していたらしい。
「実は河合ちゃんがもうすぐ誕生日なの。それで、仲良しグループの四人でサプライズしようってことになって、ひとり二千円ずつ出してプレゼントを買う約束をしてたんだ」
「じゃあ、八千円ってこと? 中一のプレゼントにしては、ちょっと高すぎないか?」
花音ちゃんが指摘すると、ふたりの友だちは言いづらそうに声のトーンを落とした。
「ここだけの話、河合ちゃんちってけっこうお金持ちなんだよ。だから安いものをあげるのはちょっと……ねえ?」
「うんうん。あげづらいよね。だから、うちらはカンパだけをしてプレゼントはアンナに任せていたの。でも、まさかアンナの行方がわからなくなっちゃうなんて……」
「サプライズも中止にしようって話をしてたんだけど、お金のほうも心配っていうか……。まあ、アンナのことだからちゃんと保管はしてくれてるだろうけど!」
友だちふたりからの証言②
・河合さんへの誕生日プレゼントを企画していた
・河合さんの家は裕福
・集めた八千円はアンナちゃんが持っている
最後に話を聞きにいったのは、アンナちゃんと同じクラスで、河合さんのプレゼント企画にも参加していた井上さんだった。
「井上さんから見てアンナちゃんに変わった様子はなかったかしら?」
彩ねえが問うと、井上さんは静かに首を横に振った。
「変わった様子なんてなにもありませんでした」
パチンッ……。その時、私の胸の中で小さな花火がはじけた。
これは、ハートキャッチの能力が発動したサイン。
井上さんの口調は淡々としていて表情も変わらないけれど、私はたしかに今ウソのハートをキャッチした。
「……ねえ、井上さん。本当になにもなかった? たとえばアンナちゃんからなにかを相談されてたり、悩みを知っていたとか」
人はウソをつく時、そこには必ず理由がある。
悪いことを隠すためや自分をよく見せるため。もしくは、誰かを守るためにつくやさしいウソもある。
ウソは決して全部が悪ではないからこそ、井上さんの心を慎重に探らないといけない。
「……なにもないって言ってるでしょ。もしかして私がウソをついてるって思ってるの?」
「そういうわけじゃないけど、どんな些細なことでもいいから、もしもアンナちゃんについてなにか知っていることがあれば教えてほしいなって」
「……アンナは、お金がほしかったみたい」
「え、お金?」
「他のみんなには言ってないらしいけど、河合ちゃんの誕プレのお金をどこかで失くしたらしくて、どうにかしなくちゃって言ってた」
「な、失くしたって……」
「でも、アンナの家は母子家庭だし、八千円も自分で用意できないから困ってた。みんなに正直に言えばいいのに、それも申し訳なくてできないって……」
パチッ、パチパチン。また連続で私の能力が反応した。
井上さんからの証言③
・アンナちゃんはプレゼント代を失くした
「つまり井上さんは、ウソをついているってことね」
私たちは、いったん話し合うために空き教室に入った。ここは昨日の放課後も使っていた教室で、廊下の一番端っこにあるおかげで人気もなく、色々なことを安心して話せる場所になっている。
「でも、集めたお金を失くしたっていうところではウソをキャッチしなかったからそこは本当だと思う」
「証言をまとめると、アンナちゃんには複雑な家庭の事情があって、そんな中で友だちから預かっていた大事なお金を失くしたってことだろ。なにもかも嫌になって家出をした可能性もありそうじゃない?」
たしかに花音ちゃんの推理が今のところ一番有力かもしれない。
「仮に家出だったとしてもボスからのミッションは、アンナちゃんを探し出すことよ。アンナちゃんが行きそうなところを次は調べる必要がありそうね」
「でもさ、行き先を誰にも言わないのが家出だろ? なにか手がかりがないと探しようがないじゃん?」
「探しようがないことを探すのが探偵でしょ? 今回も花音の能力が大活躍するかもしれないわよ」
「へへ、そうかなぁ?」
彩ねえの一言で、花音ちゃんがやる気になった。
「萌音は、なにか引っかかってる顔をしてるわね?」
さすが彩ねえ。私のこともお見通しだ。
「引っかかってるっていうか、本当に家出なのかなって思って……」
アンナちゃんは、小学校を一度も休まなかったと言っていた。そんな真面目な人が家出をするなんてよっぽどだし、プレゼント代を失くしただけにしては、ちょっと理由が納得できない。
「とりあえずアンナちゃんと関わりがあった人にどんどん聞いてみようぜ。探偵に大事なのは観察力と粘り強さとチームワークだからな!」
花音ちゃんの言葉に、私は頷く。空き教室を出て廊下を歩いていたら「ハア、ハア……い、いた!」と息を切らせた河合さんがこっちに向かって走ってきた。
「ど、どうしたの?」
「さっき言い忘れたことがあって……。アンナは毎日欠かさず日記をつけてるんだけど、失踪する前日にたまたま日記を見ちゃって変なことが書いてあったの」
「変なこと?」
「う、うん。きっとただのラクガキだと思うし、アンナがいなくなった理由とは関係ないと思うんだけど、やっぱりどうしても気になるんだよね……」
「どんなことが書いてあったの?」
「徳川埋蔵金の場所がようやくわかったって」
「「「!!!」」」
私たち三姉妹は、わかりやすく顔を見合わせた。
宮迷学園の地下に眠っているという徳川埋蔵金。
そして、行方不明になっている佐々木アンナちゃん。
まさか、このふたつが繋がるなんて……。
この事件ひょっとしたら、私たちが思っている以上に難解かもしれない――。



