恋は、終わったのです

「レオナードが覚悟を決めたら、私はお父様に頼み込んで、うちの養子に、と思っていたわ」

 カタリナがさらりと言うと、ダリウスは軽く笑った。



「はは、だが、レオは嫌がっただろうな。公爵家の養子だって、リディアが言ったから受け入れたのだろう」

「そうね、二人とも変に気を遣い過ぎるのだもの」


 カタリナはため息混じりに言いながら、遠くを見やった。



「レオたちが、追い詰められて駆け落ちを選ぶんじゃないかと、はらはらした」

「まったくよ。それに、卒業パーティーでのエスコートを見た時は、私のテンションも上がったのに、その後、二人とも早々と帰っていって……もう終わったと思ったわ」

 カタリナの言葉に、ダリウスはまた、小さく笑った。



「レオは、帰ってすぐエマの友人たちの家に抗議文を書いたそうだ。だが、セオドアが、養子になるまで、各家、様子見をし、返事を先延ばしにしていたらしい。愚かだな」

「今頃、焦っているでしょうね。今までのこともあるし、レオナードは、絶対許さないわよ。すぐ謝罪すればよかったのに」


 カタリナは呆れた顔をした。


 しかし、すぐに表情を戻し、軽く咳払いをして話題を変えた。




「……そういえばダリウス、王子殿下はなんて?」

「ああ、あの二人の結婚式に出たいそうだ」

「そう……。王子殿下、セオドアと同じ金の髪に青の瞳でなければ、どうだったかしら」


 ダリウスは少し考えるように視線を泳がせたあと、静かに言った。



「そうだな。リディア、前から好きな色じゃないと言っていたな。だが、結末は変わらなかっただろう」

「……しょうがないわ。王子殿下には悪いけどレオナードの応援をするのは当たり前よ。私たちの大事な友人なんだから」

「大事な友人なら、あまり意地悪をするなよ?」

「私は、優しいわ。ダリウスが帰ってくる少し前の話をしたわよね? 私だって、ハンスのカスタードパイを食べたかったけど、二人きりにしてあげようと思って、涙をのんで我慢したんだから」

「ああ、レオがダイエットしていると勘違いしたやつだな」

「本当よ。失礼しちゃうわ」



 カタリナは頬を膨らませて抗議するが、その表情はどこか楽しげだ。

 そのとき、ふと邸の中がざわめきだした。



「リディアたちが来たみたい」


 カタリナが視線を向けた窓の外には、馬車から降り立つリディアとレオナードの姿があった。そして、それを見た瞬間、カタリナの口角が上がる。



「うわ……見て、レオナードのあの緩んだ顔」


 ダリウスも視線を向け、思わず小さく笑う。


「あまりからかってやるなよ」

「あら? 私は、レオナードが露店で自分色のネックレスを買ってリディアにプレゼントした時だって、からかいたい気持ちをぐっと抑えたわ。顔に出さないのが本当に大変だったのだから。この件は、数年後に、からかうつもりよ」


 得意げな顔で言いながら、楽しげにくすくすと笑うカタリナ。


「でも、本当に良かったわ」

「何がだ?」

「ちゃんと辿り着いたことよ。遠回りはしたけど、間違った方向には進まなかった」

 その言葉に、ダリウスは静かに頷く。



「ねえ、ダリウス。今日は……ちょっとなら、からかってもいいかしら?」

「はは。ちょっとだぞ」


 窓の外では、リディアがレオナードに何か囁き、彼が少し照れたように視線を逸らしている。その様子に、カタリナはまた口元を緩めた。