「……そういえば」
腕の中の空気が、ほんの少しだけ変わった。
抱き寄せていた力はそのままなのに、
声のトーンだけが、いつもより低く、慎重になる。
声が、いつもより慎重だった。
軽い話題じゃない、というのがすぐに分かる言い方だった。
でも、重くしすぎないように、
ぎりぎりのところで踏みとどまっている感じ。
「聞いても、いい?」
確認するみたいに、少しだけ力が緩む。
逃げ道を残すような聞き方。
「うん」
即答だった。
迷う時間すら、必要なかった。
「〇〇はさ」
一度、呼吸を整える間があって、
その名前が、静かに落ちる。
一拍置いて。
考えているのが、ちゃんと伝わってくる沈黙。
軽く聞くつもりじゃない、という覚悟。
「将来のこと、どう考えてる?」
抱き合ったままなのに、
視線だけが、少し遠くを見ている気がした。
胸が、少しだけ跳ねる。
驚いたけれど、
嫌な緊張じゃない。
逃げなきゃ、とは思わなかった。
「結婚とか」
言葉を切るみたいに、短く。
ぱちぇは、視線を逸らしながら続ける。
正面から言うには、
まだ少し勇気が足りないみたいに。
「子供とか」
そこでようやく、
ぱちぇの考えている「将来」の輪郭が、はっきりする。
少し言いにくそうな、その様子に、
逆に落ち着いた。
構えすぎていない。
押しつける気も、答えを強要する気もない。
「結婚はね」
息を吸って、
言葉を一つずつ選ぶ。
ゆっくり、言葉を選ぶ。
「正直、昔は興味なかった」
制度としての結婚。
形としての約束。
「うん」
相槌は、静かで、否定がない。
「でも……」
その「でも」に、
すべてが詰まっている気がした。
ぱちぇを見る。
目が合う。
逃げない視線。
「この人なら、って思えたから
いつか、したいって思う」
未来を断言する言い方じゃない。
でも、曖昧でもない。
ぱちぇの目が、少しだけ見開かれる。
一瞬、時間が止まったみたいに。
それから、
ふっと、力が抜けたみたいに笑った。
張り詰めていたものが、
一気にほどけた笑顔。
「俺も」
短いけど、迷いのない音。
短く、でも確かな声。
「同じ」
それだけで、
答えとしては十分だった。
そのあと、少し間があって。
言葉が終わったあとも、
沈黙が嫌じゃない。
「子供はね」
今度は、僕の番。
今度は、僕が続ける。
「元々、苦手で。
二人でずっと一緒にいたいから、考えてない」
正直な気持ち。
取り繕わない答え。
ぱちぇの肩が、
ほんの少し下がった。
緊張が抜けた証みたいに。
「……よかった」
心からの安堵が、滲んだ声。
安心したような声。
「俺も、考えてない」
重ねるみたいに、静かに。
言葉を探す間。
すぐには続かない。
でも、止まりもしない。
「遺伝のこともあるし
同じ思いは、させたくない」
それ以上の説明は、
必要ないと分かる言い方だった。
深く踏み込まなくても、
触れてほしくない部分だと、ちゃんと伝わる。
それ以上、詳しくは聞かなかった。
聞かないことも、選択だ。
それで、十分だった。
腕の中の空気が、ほんの少しだけ変わった。
抱き寄せていた力はそのままなのに、
声のトーンだけが、いつもより低く、慎重になる。
声が、いつもより慎重だった。
軽い話題じゃない、というのがすぐに分かる言い方だった。
でも、重くしすぎないように、
ぎりぎりのところで踏みとどまっている感じ。
「聞いても、いい?」
確認するみたいに、少しだけ力が緩む。
逃げ道を残すような聞き方。
「うん」
即答だった。
迷う時間すら、必要なかった。
「〇〇はさ」
一度、呼吸を整える間があって、
その名前が、静かに落ちる。
一拍置いて。
考えているのが、ちゃんと伝わってくる沈黙。
軽く聞くつもりじゃない、という覚悟。
「将来のこと、どう考えてる?」
抱き合ったままなのに、
視線だけが、少し遠くを見ている気がした。
胸が、少しだけ跳ねる。
驚いたけれど、
嫌な緊張じゃない。
逃げなきゃ、とは思わなかった。
「結婚とか」
言葉を切るみたいに、短く。
ぱちぇは、視線を逸らしながら続ける。
正面から言うには、
まだ少し勇気が足りないみたいに。
「子供とか」
そこでようやく、
ぱちぇの考えている「将来」の輪郭が、はっきりする。
少し言いにくそうな、その様子に、
逆に落ち着いた。
構えすぎていない。
押しつける気も、答えを強要する気もない。
「結婚はね」
息を吸って、
言葉を一つずつ選ぶ。
ゆっくり、言葉を選ぶ。
「正直、昔は興味なかった」
制度としての結婚。
形としての約束。
「うん」
相槌は、静かで、否定がない。
「でも……」
その「でも」に、
すべてが詰まっている気がした。
ぱちぇを見る。
目が合う。
逃げない視線。
「この人なら、って思えたから
いつか、したいって思う」
未来を断言する言い方じゃない。
でも、曖昧でもない。
ぱちぇの目が、少しだけ見開かれる。
一瞬、時間が止まったみたいに。
それから、
ふっと、力が抜けたみたいに笑った。
張り詰めていたものが、
一気にほどけた笑顔。
「俺も」
短いけど、迷いのない音。
短く、でも確かな声。
「同じ」
それだけで、
答えとしては十分だった。
そのあと、少し間があって。
言葉が終わったあとも、
沈黙が嫌じゃない。
「子供はね」
今度は、僕の番。
今度は、僕が続ける。
「元々、苦手で。
二人でずっと一緒にいたいから、考えてない」
正直な気持ち。
取り繕わない答え。
ぱちぇの肩が、
ほんの少し下がった。
緊張が抜けた証みたいに。
「……よかった」
心からの安堵が、滲んだ声。
安心したような声。
「俺も、考えてない」
重ねるみたいに、静かに。
言葉を探す間。
すぐには続かない。
でも、止まりもしない。
「遺伝のこともあるし
同じ思いは、させたくない」
それ以上の説明は、
必要ないと分かる言い方だった。
深く踏み込まなくても、
触れてほしくない部分だと、ちゃんと伝わる。
それ以上、詳しくは聞かなかった。
聞かないことも、選択だ。
それで、十分だった。
