バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「まだある」

その一言で、心臓が跳ねた。

期待と不安が、同時に押し寄せる。
何かを受け取る準備なんて、できていなかった。

「手、出して」

声が、少しだけ低い。

言われるまま、左手を差し出す。

指先が、わずかに震えているのを自覚する。

手首を軽く取られて、
引き寄せられる。

距離が、一気に縮まる。

次の瞬間、
薬指に、ひんやりとした感触。

金属の冷たさが、やけにはっきり分かる。

視線を落とすと、
月の模様が刻まれた指輪が、そこにあった。

一瞬、理解が追いつかない。

夢を見ているみたいで、
現実感が、遅れてやってくる。

固まった僕を、
ぱちぇはそのまま抱き寄せた。

逃がさない、みたいな力。

「ずっと、こうしたかった」

耳元で、低い声。

吐息が触れて、背中がぞくりとする。

「〇〇、愛してる」

言葉が、真っ直ぐ落ちてくる。

息が、止まりそうになる。

「絶対、幸せにするから」

迷いのない声音。

腕に、力がこもる。

「ずっと、傍にいてほしい」

胸がいっぱいで、
声を出す余裕もない。

答える前に、
唇に触れる、柔らかい感触。

確かめるみたいな、短いキス。

初めてのキスは、短くて、でも確かだった。

離れたあとも、
額が触れ合ったまま。

呼吸の距離が、近い。

ぱちぇは、自分の左手を見せてくる。

太陽の模様の指輪。

月と、太陽。

「俺も」

静かな声。

「選ぶとき、迷わなかった」

一拍置いて。

「会うって決まった時から
 これだけは絶対渡すって決めてた」

その時間の重さを思って、
胸が、ぎゅっとなる。

胸が、いっぱいになる。

嬉しいのに、苦しくて。
でも、離れたくなかった。

「……ありがとう」

そう言って、抱きしめ返すと、
すぐに、強く抱き返された。