バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「食べてもいい?」

一瞬の間。
許可を求めるその距離感が、やけに嬉しかった。

「うん」

ぱちぇは、きちんと一言聞いてから、
フォークで切って口に運んだ。

躊躇がないわけじゃない。
でも、遠慮もしすぎない。

一口。
それから、もう一口。

味を確かめるみたいに、少しだけ間を置く。

「……美味しい」

少し驚いたような声。

予想以上だった、みたいな響き。

「めちゃくちゃ美味しい」

その言葉で、肩の力が抜ける。

気づけば、量があったはずのパウンドケーキが、
あっという間に減っていく。

フォークが止まらないのを、
止めたい気持ちと、見ていたい気持ちが混ざる。

全部食べ切ってくれたのが、嬉しくて。
でも、どうしていいか分からなくて、
隣で、少し落ち着かないまま座っていた。

手の置き場も、視線の先も、定まらない。

その様子を見て、
ぱちぇが、ふっと息を吐く。

空気を切り替えるみたいに。

「ご馳走様。作ってくれてありがとう、次、俺の番ね」

その言い方が、自然で。

鞄を膝に乗せて、
中を探る手つきは、丁寧だった。

何を出すか分かっているはずなのに、
あえて急がない。

最初に出てきたのは、畳まれたTシャツ。

「……お揃い?」

思わず声が出る。

「うん」

ズボン、トートバッグ。

少しずつ並んでいくものたち。

「一緒に使えたらいいなって」

その言葉に、
“これから”が含まれている気がして、胸が詰まる。

最後に、小さな箱。

空気が、少しだけ変わる。

「それと、これ」

中に入っていたのは、香水だった。

見慣れないのに、
なぜか、すでに知っている気がする。

「俺が普段使ってるやつ。
 同じ匂いだったら、安心するかなって」

距離が離れている時間のことまで、
考えてくれていたんだ、と思う。

胸の奥が、じんわり温かくなる。

言葉にすると、壊れてしまいそうで。

「……ありがとう」

それだけで、精一杯だった。